ペルソナは“弓道部の女性部長”?書く姿勢が美しく見えるゼブラの新シャープペン「リント」の開発秘話
◆筆記箇所が見やすいことが、書くときの姿勢に影響するかもしれないという発見
そこからは、パイプが長いと書き姿が美しくなるというのは、ユーザーへのベネフィットになり得るのではないか、という仮説の検証と、実際の製品の製作が始まります。 「実際に、筆記時の肩の傾きの調査なども行いました。姿勢解析ができるアプリで『リント』の試作品と、別の自社商品で書き比べテストを実施したんです。 社内でいい結果が出たので、ユーザーにも調査を行い、結果的には、『リント』のほうが肩の傾きは水平に近くなるという結果が出ました。ただ個人差もあり、『姿勢がよくなる』という打ち出し方は難しいとなりました」(篠原さん) あくまでも「リント」は、のぞき込まなくても文字が見やすいシャープペンシルであって、姿勢矯正機能があるわけではありません。ただ、のぞき込まないで済む、筆記部分の視認性が高いというのは間違いがないわけで、その特徴を分かりやすく伝えるのに「美しい書き姿へ」というキャッチが生まれたというお話でした。 「製品としては、パイプの長さだけではなく、ペン先のパイプへ向かう部分を単なる円錐状ではなく、内側に少しカーブしているような形にして、より視界の邪魔にならないようにしています。また、ペン先の根元のプラスチック部分を暗い色にして光の反射が極力ないようにもしています。 グリップも付けていないのですが、ペン先に向かって少し末広がりになっているのでしっかり握れますし、持つ位置の最適解といいますか、見やすさを担保する位置に手指が来るように、そのあたりはこだわって設計しています」(篠原さん)
◆どんな人に使ってもらいたいかを考えて開発を進めていく
それにしても、シンプル過ぎるデザインなのですが、そこにも、この製品ならではの思いがありました。 「このペンを使う人はどのような人なのだろう、というところからデザインを考えていきました。“姿勢を美しく”という考えから『凛と』というイメージが決まっていたので、そこから、弓道部の女性キャプテンで、自分にも他人にも厳しいけれど、後輩からは慕われている。 勉強は学校や家より、外で集中してやっているような子、といったペルソナを作って、その子はどういうものを選ぶのかというところから、いろいろと組み立てていきました」(篠原さん) このイメージを開発チームの中で共有するために、チーム内でも細かくイメージを出し合い、ペルソナを固めていったそうです。 「私がこの企画に参加したときには、ある程度ペルソナも固まっていたのですが、最初にしっかりと説明されて、『こういう感じの子』と、イメージに近い写真や作り込まれた書類を見せてもらいました」と、篠原さんと同じく、「リント」の開発に携わった細川仁美さんも話してくださいました。 デザインするにも、ブランディングするにも、常に、「この子ならどうなのか」という部分に立ち返りながら、製品を作っていったそうです。その際、細川さんやスタッフから、篠原さんに「この子だったら、そっちではないと思います」と提案することも多かったといいます。 「今も、細川とは新しい企画をやっていますが、そこでも、ペルソナの共有のために、頻繁に話し合っています。そうやって、チーム内で具体的なイメージを共有したことで、『リント』も一貫性が保たれたと思います」(篠原さん) 実際、当初「凛とした」というコンセプトから、もっと和の色の軸にする予定だったところ、「この子は、そういう色じゃない」というチーム内の声から、現状のやや淡い色合いに変更したりもしたそうです。