思っていた日本と違う? 2回目の「東京五輪」は世界に何を発信できるか
新型コロナウイルスの影響で1年延期された東京五輪が23日、開幕する。コロナの感染再拡大を受けた4回目の「緊急事態宣言」という局面での開催となり、五輪中止を求める声も根強くある。上智大学国際教養学部の中野晃一教授(政治学)に、海外メディアから見た東京五輪や五輪開催に向けて突き進む日本政府の対応について聞いた。 【図解】東京五輪・パラリンピックをめぐる動き
●海外メディア「なぜ五輪は不人気?」
東京五輪が近づき、海外メディアから取材を受ける中で、中野教授はある変化に気づいたという。東京に駐在する海外記者らの東京五輪に対する意識だ。各紙の世論調査では、日本人が政権のコロナ対策に不満や不信を持っていることが読み取れるが、同じように「日本に暮らしている特派員の見方が変わってくるのを感じた」。 もともと彼らは「東京五輪への期待はあった」と語る。海外メディアの中には、東京の支局を閉じて中国に移したり、ソウルに置いて韓国と日本を担当したりする社も出てきており、「かつてと比べて東京をベースにして日本のニュースを発信するのが弱くなってきている」。そうした中で東京の特派員としては日本発のニュースを多く出せるチャンスだからだ。 しかしある時期から変わってきたという。その変化の背景には、日本のコロナ対策への懐疑があるとみる。 中野教授は、日本ではPCR検査がいまだに少なく、ワクチン開発ができず、ワクチン接種も遅れていることなどから、コロナ対策で「科学的な力を感じるものはなかった」との認識を示し、「結局『3密』に気をつけてマスクをして何とかしろ、と言われるだけのような状態が続いている。結果として経済も痛手を被る。そういう中で本当に五輪ができるかとなっていった」と日本人の五輪への意識が変わった要因を推察した。 日本国内の世論が厳しくなっていく中で、日本にいる特派員も「ワクチンもまだ行き渡っていないのに感染爆発を誘発するようなことをする」ことへの疑念から「五輪に反対になっていったというのが実感としてある」と語った。 こうした意識の変化は、日本駐在の記者だけではなく、五輪開幕に合わせて最近来日したスポーツ記者や番組キャスターらにも見られたという。 彼らは「なぜ日本では五輪がこんなに不人気で、中止論が強いのか」「それは本当なのか」との疑問を持っていた。日本の感染状況はアジアやオセアニア諸国と比べると良いとは言えないが、欧米諸国と比べれば死者や感染者は多くないからだ。 来日前のオンライン取材でも「五輪が無観客になったことにがっかりしている日本人が多いんじゃないか」と聞かれたという。ただ彼らも実際に来日すると、歓迎されていない雰囲気や五輪への反発の強さが「少しずつ分かってきた」。 中野教授によると、日本政府は「安心安全な大会」と言っていたのに、来日した選手や大会関係者らに感染が相次ぎ、感染対策の面でも、国民へのワクチン接種が遅れていることや、いまだ飛沫感染への対策が中心で、より感染力が強くエアロゾル感染の可能性が指摘されるデルタ株を想定した対応になっていないことなどに対して、来日した記者らが疑問を持ち始めているといい、「そういう人たちは日本が期待外れだと、思っていた日本より良くないと気づいてしまった」。そして「日本はハイテクで、効率が良くて、優秀で、信頼ができて、“おもてなし”の国で、ご飯が(デフレで)安いのに美味しい」(中野教授)というイメージが崩れつつあるのだという。