思っていた日本と違う? 2回目の「東京五輪」は世界に何を発信できるか
●好意的な世論がアンチ五輪に
日本はもともと、世界の他の国と比べても五輪そのものに好意的な世論だったという。ただそれが、コロナ禍でガラッと変わってしまった。 中野教授自身は「IOC(国際オリンピック委員会)の腐敗やジェントリフィーケーションといわれる再開発の問題などがあり、過度に商業化されて、スポーツエリートや電通などの既得権益を持つものばかりが潤うだけのイベントになっている」などの理由から「五輪自体に懐疑的だ」との立場を示す。 しかし、と続ける。「今回のことで非常に驚くのは、日本のように五輪への批判的意見がほとんどなかった国をここまでアンチ五輪にしてしまうミスハンドリングで、日本政府にしてもIOCにしても、ひどいと思う」
最初の大きな誤りは、昨夏に開かれる予定だった東京五輪を「1年延期」し、「完全な形で実施する」という「無茶なハードル」を安倍晋三前首相が決めたことだと強調する。 ただ安倍前首相は、今年9月までの自民党総裁任期を待たず昨年8月に辞任。後を菅義偉(よしひで)首相に託した。「菅さんは9月に総裁選があるので、そこで再選されるためには、安倍さんたちの支持を得なければいけない。そうすると五輪はやらないわけにはいかない」 中野教授は、そうした経緯から菅首相には当事者意識が希薄だとし、コロナ禍の五輪開催という難しい舵取りが「そういう人に委ねられてしまった」と不安がる。「全くリーダーシップが見えない中で『とにかく突っ込め』というだけで、実際に(五輪を)運営できるような条件を整えることはできなかった」
もう一つの誤りは、ワクチン接種の遅れだ。中野教授は「日本がとりわけ西洋と比べて失敗したのがワクチン接種の遅れ」だと指摘する。「五輪をやりたいのだとしたら、ワクチンの接種率をもっと早く上げることに優先順位が置かれていなければおかしかったのに、まったくそうはなっていなかった」 さらに、安倍前政権と現在の菅政権に通底する問題として「とにかくアカウンタビリティがない。説明責任を果たさない」と述べた。 「安倍さんのときから記者会見を開かない、国会を開かない、開いていても答えない、時間を区切っている、更問い(追加質問)はできない――など、満足のいく情報公開はなく、現状認識の共有が全然なされない。コミュニケーション能力が足りないことが、大きな不信感を招いた」 4回目の緊急事態宣言が出ていても「思うような効果が出ない」のは、自粛疲れというより、対策を取る理由に納得感がなく「意味が分からない」からではないか、と国民の心情を慮った。