金原ひとみ×ゆっきゅん対談。新しい出会いを受け入れていくこと「中年になると、だんだん自分の世界が定まってくる」
恋愛も描かれた『ナチュラルボーンチキン』。「少しずつ受け入れられる関係を書いた」
『ナチュラルボーンチキン』では、平木との出会いで人生が「ひらけた」浜野が、破天荒なライブパフォーマンスをするバンドマン、かさましまさかとの恋愛関係を築き上げていく様子も描かれる。人生に変化が訪れる恋愛関係に踏み出すことを、浜野はためらいながらも、やがて受け入れていく。 浜野とまさかの恋愛の話から、対談は金原さんとゆっきゅんさんの「人との付き合いかた」に広がっていった。 ゆっきゅん:浜野は、そういった混沌や矛盾から離れるように自分の感情を決めていたんだと思います。この物語は、そこから混沌や矛盾に飛び込んでみる話だと思いました。 そのなかでも、恋愛はまさしく混沌だと思うんですけど……。 以前、金原さんが落合陽一さんと対談している動画を見て、面白かったんですけど、恋愛について描くことが変わってきたと話されていて。 今回、恋愛も描くにあたって、何かいままでとは変わったことはありましたか? 金原:これまでは急いでハッキリさせたい、みたいな感じだったんですよね。付き合うにしてもセックスするにしても、すぐに追求を終わらせる、みたいな。私も恋愛自体がわりとそういうタイプで、 そういうものを書いてきたんですけど、今回は「どうする?」「こうしようか、ああしようか」みたいな時間を、グダグダしているというわけではない描きかたで、それがあるからこそ少しずつ受け入れられる関係を書いているなと思います。 でも、自分ではこうじゃないんですよね。 ゆっきゅん:最高ですね(笑)。私は激突する人に憧れます。自分がなかなかのたうち回れなくて、自分の「のたうち回れなさ」みたいなものと、どうにか折り合いをつけて生きているみたいな感じなので。
「のたうち回ることのできる女友達がすごく好きです」
金原:「のたち回れなさ」って言葉、すごくいい。 ゆっきゅん:のたうち回りたいという気持ちはあるんですよね。でも、仕事でもプライベートでも誰かにそういうことをぶつけられないというか、喧嘩したことがないんです。家族とも喧嘩したことがない。だから、のたうち回ることのできる女友達がすっごい好きです。 金原:すごい。それ、若い子は多いのかな。けちょんけちょんになるまで人と喧嘩したことがない、みたいな。 ゆっきゅん:家族も基本的に穏やかだったし、あとは機嫌が悪い人がいたら、別の部屋に行けばいいと思ってましたね。 金原:私は、「のたうち回り系」じゃないですか。 ゆっきゅん:(笑) 金原:子どもたちとご飯に行ったときに、すごく悲しくて泣いてしまったことがあったんですけど。子どもたちからちょっと批判的なことを言われたので、自分の考えを主張したら、「ママって厳しいよね」って言われて。私は「こんなに思っているのになんで伝わらないんだろう」って、ご飯を食べながら泣いてしまって。食べ終わってお店を出たら、子どもたちは「友達に会ってくる」と行ってしまって、家に帰ってこなかったんです。 家に帰った瞬間、狂ったように怒りと悲しみで大絶叫して……そこまでがセットみたいな(笑)。 でも、やっぱりいまの若い子って、人の剥き出しの感情みたいなものを野蛮なコミュニケーションに感じるというか、すごく警戒するんじゃないかなと思って、子どもたちの前では怒ったり泣いたりしないようにすることを心がけています。 ゆっきゅん:なるほどな……。自分が若い子に当てはまるかわからないですし、お子さんとは年がちょっと離れてるんですけど、ためらいがあったり、まず怒りがちょっと少なかったりするのかなと思いました。他人は他人、という前提がありすぎるのかもしれません。自由になんでもできる可能性がある分、人に対してもそう思って、期待しないのかなって。優しさは冷たさと近いなとも思うんです。 自分も話が合わない人と話がしたいという気持ちが希薄になってきていると思います。フリーランスとして働いていると、誰かと会うならすごく会いたい人にしか会いたくないし、でもそうなっていくと怖さもあるんですよね。 金原:すごく完成された世界。 ゆっきゅん:『ナチュラルボーンチキン』も、浜野が平木と出会ったのは会社ですよね。会社って、たまたま出会うとか、そういう場所でもあると思って。それがなくなっていくことがヤバいかもしれないということも感じます。 売れている人で、「あいつはまわりにイエスマンしか置いていない、だから終わってる」みたいに批判されることが思い浮かぶんですけど、でも一方で、それって本当に悪いことなのかなとも思うんですよ。きっと最初はとにかくまわりの人と話が通じなくて、苦労して、やっと自分が出会えたと思った人と仕事をするようになったとしたら、それはそんなに悪いことなのかな、とも思うんです。 金原:たしかに、それは自分が勝ち取ってきたものですよね。 ゆっきゅん:荒野に一人で立たされ続けるよりは……。でも、自分はいずれ、そういう批判をされるんだろうな、みたいなことを勝手に思ったりする。