韓国ドラマ「愛の不時着」ヒットの理由
コロナ禍で外出自粛の世の中、静かにヒットしているドラマがある。ネットフリックスで配信中の韓国ドラマ「愛の不時着」だ。昨年12月から今年2月まで韓国で放送された作品で全16話、1話あたり1時間以上あり、近年の日本のドラマと比べ長い尺だが最初から最後まで飽きさせない恋愛エンターテインメントに仕上がっている。ネット上では全22時間以上を「ほぼ寝ずに見た」「最終回を見終わったあと不時着ロスに悩んでいる」といった声や、ステイホーム中の芸能人にも同作のファンが多数発生。何がそんなに面白いのか。
現実にはあり得ない展開だからこそ面白い
物語は、冒頭から衝撃的だ。韓国の財閥の跡取り娘ユン・セリ(ソン・イェジン)がパラグライダーに乗り竜巻に遭遇、気がつくと北朝鮮に不時着していて、そこで北朝鮮の軍人リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)と出会う。 以後、物語はまず現実にはあり得ないであろう荒唐無稽とも思える展開を見せるが、中途半端にリアリティーにこだわらない思い切りのいい脚本と演出は、エンターテインメントとしてのドラマの真骨頂を見せる。 そしてキャストがいい。「私の頭の中の消しゴム」(2004年)などスクリーンでもおなじみのソン・イェジンは、38歳になってますます美しい。同じ1982年生まれのヒョンビンは「私の名前はキム・サムスン」「シークレット・ガーデン」などやはり多くのドラマや映画で人気を獲得してきた“二枚目”という形容がふさわしい俳優だ。今作でさらにファンを増やしたのではないか。知性と教養を感じさせる2人のたたずまいは、それぞれエリートであることに説得力がある。また、2人を追いつめていく“敵役”チョ・チョルガンを演じるオ・マンソクも野心に満ちながらどこか常に不安げで目が泳ぐ、そんな物哀しい悪役ぶりが実に効いている。
散りばめられた“隠し味”がドラマを楽しいものに
ほか、ジョンヒョクの婚約者でセリの恋敵となるソ・ダン役のソ・ジヘは、今作の男性ファンの間でセリと人気を二分するほどの存在感を見せている。相手役となるク・スンジョン役のキム・ジョンヒョンも重要な役どころを好演し、とくに終盤に入って物語を盛り上げる。 また、北朝鮮でセリが潜伏する村の人々も役者が揃っている。リの部下で、せっかちで口が悪くいつもセリに悪態をつくピョ・チス役のヤン・ギョンウォンをはじめ、わかりやすいキャラクターをわかりやすく、しかし鼻につかない線を保って演じている。彼らが醸し出す笑いが隠し味のように全編に散りばめられていることで、ドラマを重苦しさからすくい上げている。 軍事境界線によって北と南に分断されている朝鮮半島ならではの状況がドラマのキモになってはいるが、この物語が韓国ドラマの枠にとどまらず受けるのは、どんな国にあっても(もちろん朝鮮半島のそれとは次元は異なる話だが)個人レベルではさまざまな分断を経験することがあって、2人が運命や困難な状況に翻弄されながらも必死に生きようと抗う姿への共感が持て感情移入できるからだろう。 (文:志和浩司)