<なるほど!外交・安全保障>中国の海洋進出の背景にある「考え方」とは?
世界の関心が南シナ海に集まっています。中国が「軍事目的」を隠すことなく、一方的に占拠した岩礁を急速に埋立て、実効支配を強めているからです。米国防省の発表によれば、2014年末からの4ヶ月程度で、東京ドーム約127個分の面積が埋め立てられました。しかし、中国の海洋進出を巡る問題の本質は「埋立て」にあるのではありません。中国の行動を規定している「考え方」そのものにあります。なぜなら、中国は海軍に関する壮大な建設計画と、国境に関する独特な概念、そして、国土に関する特異な認識を持っているからです。
「海軍建設計画」: 将来は米軍と対等に
中国は、2040年までに、米軍が太平洋とインド洋を独占的に支配する現状を変えようとしています。そして、そのために米海軍と対等な力を持った海軍をつくり上げる計画です。この計画の原点が打ち出されたのは、1980年代。計画は時代の変化を受けて度々見直されてきましたが、基本的な枠組みは今なお引き継がれています。その枠組とは、4つの発展段階と、それらに対応した目標のことです(図表1参照)。例えば2014年、中国の政府関係者の発言によって、中国が2隻目の空母を建造していることが明らかになりました。この空母の建造も建設計画に沿ったものと言えます。それでは、何故、中国はこうした壮大な計画とともに海洋への進出を試みるのでしょうか。
「戦略辺疆」:国境は国力に応じて変化する
中国は、「国境は国力に応じて変化する」と考えています。これが「戦略辺疆」という概念です。この概念は、1987年、中国の中央軍事委員会の機関紙である『解放軍報』に掲載された論文の中で紹介されました。この論文によれば、中国は自国の安全と順調な発展を保証するために「国家と民族の生存空間」を確保するとし、そのために「海洋」、「深海」、「宇宙」という三次元において「国境」の拡大を目指すとしています。事実、1988年、中国は南沙諸島に進出し、ベトナム軍との銃撃戦の末、6つの岩礁を占拠しました。1995年にはフィリピンが管理していたミスチーフ礁、2012年にはスカボロー礁にも進出しています(図表2参照)。中国は「海洋」における「国境」を着実に拡大しているのです。それでは、中国は進出・占拠した岩礁を、どのような存在として位置付けているのでしょうか。