『進撃の巨人』は殺戮者をどう描いたか。コミックス版から変更された「対話」を起点に高島鈴が読み解く
殺戮者であり、親友であるエレンに伝えた「ありがとう」の意味
34巻から35巻での最も大きな変更点にして、エレンとアルミンの揺らぎを最大限あらわしている場面が、アルミンからエレンにかける最後の言葉である。 まず、前掲の「殺戮者になってくれて~」の箇所は、35巻では完全に削除されている。ここは作者がそもそも自省していた部分であり、書き直される必然性がある。35巻ではそこからかなりの程度、セリフが追加されている。 ただ振るいたくて力を振るったと告げるエレンに、アルミンは「自分もこの世から人が消える想像をしたことはある」と共感を示す。そして以下のように続ける。 「ありがとうエレン / 僕に壁の向こう側を… / この景色を見せてくれて… / これは僕達がやったことだ / だから… / これからはずっと一緒だね」 「…これから? / …どこで?」 「あればだけど… / 地獄で / 8割の人類を殺した罪を受けて…/苦しむんだ / 二人で」 この話し合いを経て、二人は血溜まりのなかで抱き合う。そして、「次は殺し合いだね… / そして… / その次に会う時は…」「ああ… / 先に待ってる / 地獄で」という言葉が、二人の最後の会話になるのだ。 いずれにせよ重要なセリフである「ありがとうエレン」は、34巻ではアルミンはエレンの加害に対して感謝するかたちになってしまい、それが語弊を生む表現だった、と作者は認識していた。 35巻ではそこが「壁の向こう側を見せてくれたこと」への感謝に変わっており、加害については決して肯定しない。その代わりに強調されているのは、アルミンがエレンの共犯として自身を位置づけている点だ。 理解はできなくても、責任をともに負う約束はできるし、むしろそのようなかたちで相手のそばにいたことを引き受けたいと願う。ただ加害したくて加害した、それ以上に説明のつかない欲求を抱えて実際に「やってしまった」エレンに対して、アルミンの出す答えはそこにあるのだ。