僕たちは「入り口を作るマン」でいい 社会課題伝える動画が1300万再生 1分動画でも行動変容起こせる
「伝えたい」が勝ちすぎると……
金澤:1分という長さにする、ユーモラスにする過程で、そぎ落としていかなければいけないものもあると思います。そのバランスはどう工夫されていますか? トム:難しい作業ではあるんですけれど、これは報道に関わる話だけじゃなくて、起業家のプレゼンなどにも通じる話だと思っているんです。長々と話しても誰も聞いてくれない。 限られた時間で相手を引きつけないといけない。伝えられないというのは、一見ネガティブなようにも思えますが、物事にまだ興味を持てていない人に何かを伝えようという時に「伝えたい」が勝りすぎると、受け取ってもらえないということになってしまうと思います。そこで僕たちはあくまで「入り口を作るマン」として、割り切って、自分の役割としてやっています。 金澤:「伝えたい」が勝ちすぎるというお話は、我々記者にとっても身につまされるお話でした。伝えたいという気持ちは悪いことではないんですけれど、その熱が伝えたい人や関心が強くない層に伝わる形で表現できているのかというのは、日々問い直さないといけないなと思いました。 中村:私も普段からRICE MEDIAさんのコンテンツは拝見しているんですけれど、キャッチーでシェアしたくなるんですよね。私たちが難しい安全保障の話をしようとした時も、シェアしたところで、実際どれだけ読まれているのかは分からない。情報が流れてきたときに目がとまる形式を確立されたのはすごいなと思っています。 金澤:入り口という言葉も何度も出てきましたが、トムさんの場合、短尺の動画は入り口ということで、その先にまだ何かがある? トム:もうちょっと、受信者側のことを信じてもいいのかなという気がしています。1分じゃ伝えきれないんですけど、みんな意外と、1分の動画でも、それを見た後にめちゃくちゃ行動変容している人がいっぱいいるんですよ。 大きなところだと進学する大学を変えましたとか、就職先を変えましたという、人生ごと変わっちゃったという人もいれば、僕たちの動画で紹介した活動に参加する人もいます。1分の動画でも興味を持って、自分で調べてくれたり、もっと深い動画を見てくれたり、行動を起こしてくれたりということは起こりえるなと思っています。 金澤:RICE MEDIAのイベントにお邪魔したときに、参加者の方にすごく熱がありました。入り口は1分の動画でも、その後の興味関心の「加速」については、視聴者・読者に任せてもいけるんじゃないかという感覚がありました。 トム:そうですよね。これに関しては僕たちは圧倒的に性善説なので。そんなに悪い人ばかりじゃない、むしろいい人しかいないんだけど、情報が届いていなかったり、僕自身も昔そうだったように生活に余裕がなかったり、忙しくて見る余裕もないということがあるんじゃないかなと。 それってその人が悪いわけじゃないと思うので、じゃあ、どうやったらみんなが無理なくやれるか。意識を高く保たなくても、自然とそういうところに目が向く社会をどうデザインするかの方が大事だと思うんです。 金澤:勉強しようという意識が無くても、自然と生活の中に入り込む仕掛けという点では、中村さんの原爆ARにもつながる話だと思います。 中村:原爆のことを知ろうと思った時に、日本はコンテンツが一番充実している国だと思います。 むしろ私たちは、「この課題について関心がある」という意思表示の仕方がもっと多様になったらいいのかなと思っています。 例えば「私は核兵器に反対しています」と社会に声を上げたい時に、これまでなら、デモに参加したり、署名キャンペーンを立ち上げたりするなど、ハードルが高い選択肢しか用意されていなかったのではないかなと。 「この作品を見ました」「この企画展に行ってきました」という、緩やかな意思表示の仕方が増えてくるといいなと思いましたし、原爆ARを世に出したことで、プロのデザイナーやクリエイターの方が声をかけてくださるようになったんです。プロの力が加わることで、どんどん表現が磨かれていくという流れを体験しているところです。 金澤:雪だるま式に賛同者が増えることで、大きな丸になっていくイメージがわきました。 トムさんの動画の視聴者さんたちにも、そういった「ゆるやかな意思表示」の広がりはありますか? トム:僕たちの動画はシェア率がすごく高いんですよ。それは目標としても設定している部分なんです。 見終わった後にシェアしたくなるかどうかを考えて作っていて、動画の最後も「この取り組みめっちゃいいですよね」「広げるためにシェアのご協力お願いします」とやっているんで、そこでシェアしてくれる人は多いと感じます。シェアって、意見を言わなくてもやんわりと「これいいね」という意思表示になると思います。 金澤:自分の言葉を使わなくても、シェアボタンを押すという「ゆるやかな意思表示」の行動ですね。シェアしてもらうための工夫ってあったりしますか? トム:細かい設計は色々あるんですけど、「注文をまちがえる料理店」の小国士朗さんと対談した時に「伝わるコンテンツというのは『?』『…』『!』という順番で作らないといけない」という話をされていたんです。 「なんだろう?」という疑問で興味を引き、「実は…」というところに持っていき、最後に「なるほど!」と納得があると、そのコンテンツは届くという話を聞いて、RICE MEDIAと一緒だなと思ったんです。 最初は社会課題を出さずにエンタメの皮をかぶって、その後、実はこれってこういう課題につながるんですよ、と。最後に、そこで立ち上がったのがこの人たちで、こんな結果が出ているんだよと最後の1プッシュをしてあげたうえで、シェアしてくださいね、とやると納得感があって、「これは広めないと」となりやすいんじゃないかなと思いますね。