僕たちは「入り口を作るマン」でいい 社会課題伝える動画が1300万再生 1分動画でも行動変容起こせる
社会課題を伝えるための工夫をする過程で、そぎ落とされてしまったり、伝えきれなかったりする情報もあります。YouTubeで社会課題に関する発信をしている、RICE MEDIAのトムこと廣瀬智之さんと、被爆3世というルーツを持ち、核廃絶を目指す活動を続けている中村涼香さんの2人に、withnews編集部の金澤ひかりが「届け方、どうする」をテーマに話を聞きます。(構成・武田啓亮) 【画像】1300万再生の動画も 「1分で社会を知るメディア」とは? 廣瀬智之さん 1995年生まれ。立命館大学卒業後、2019年、社会課題に関心を集めることを目的にした「Tomoshi Bito」(福岡市)を起業。21年から「RICE MEDIA」での発信を開始。YouTubeでは、使い捨てプラスチックやフードロスなどの社会課題を題材に、自らの実践も交えた動画が人気に。「トム」の愛称で親しまれている。「社会課題を誰にとっても身近に」という思いから、日本の食卓のシンボルであるライス(お米)をメディア名にした。 中村涼香さん 2000年生まれ。 上智大学総合グローバル学部卒業。 被爆者の祖母を持つ被爆3世。高校時代から被爆地長崎を拠点に、核兵器廃絶を目指す平和活動に参加。 2021年に学生団体「KNOW NUKES TOKYO」を設立。国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のパートナーとしても活動し、核兵器禁止条約を推進している。原爆投下のキノコ雲を疑似体験できるアプリの開発に携わるなど、若年世代に核の問題を届ける方法を模索している。
8月6日が何の日か分からない人に
金澤:近年では、8月6日、9日に何があったのか知らない人たちもいると報じられているものを目にしたことがあります。中村さんの取り組みの中で、そうした人たちにも情報を届けられたという手応えを感じる経験はありましたか? 中村:そこはまだ遠いなという感覚がありますね。私が草の根的に運動をしてきた中で、この問題に主に関わっていたのは被爆者、専門家、政治家、といった限定的な方たちでした。この問題を知っていて、関心はあるけれども何もできていない、という人たちにまずは広げていくというのが大事だと思っています。 私も被爆3世というアイデンティティがあるんですけれど、これって、この問題について語れる免罪符のようなものだと思っています。なんで核の問題に取り組んでいるんですかと聞かれた時に「被爆3世なんです」と答えると、すぐに納得してもらえる。 でも、そうでない同世代の人たちがこの問題について考える時には、ちょっと難しい議論の方に寄っていってしまう。「自分はこの問題について語っていいのかな」と思いがちというか、そんな社会の風潮になっていると思います。 でも、被爆者の方々がいなくなる時代が来ることを考えると、そうも言っていられない。どれだけ多くの人とこの問題について考えていけるか、一つずつ外側に広げていきたいと思っています 金澤:関心があるけれども何もできない層というのは、トムさんのおっしゃっていた「未認知層」とは少し違うのでしょうか? トム:未認知層にもいろんな人がいるとは思うんですが、僕たちがもう一つ言葉として持っているのは「潜在的感心層」。そこがコアなターゲットなんですけれど、関心を持っていることを表明しているわけではないけれど、無関心かというとそうでもないという人が一定数いるんじゃないかと思っています。そこは中村さんのお話とつながる部分があるのかなと思います。 金澤:トムさんが手応えを感じた企画・届け方があれば教えて下さい。 トム:RICE MEIDIAのショート動画のフォーマットが出来たこと自体が、一番印象に残っています。 初期の立ち上がりの頃って、今と全然違うことをやっていたんです。本当に「ザ・ニュース」という感じでカッチリしたニュースコンテンツを作っていたのですが、それでは全然届かなかった。じゃあどうしたらいいんだということで、よく見ていたTikTokを参考に「これなら見てしまう」という、自分自身の欲求を満たすものを作ろうということにしました。 第一弾はレジ袋を禁止した自治体に行って、「恥ずかしいな…」と思いながらも駅前でジャンプ(トムさんの決めポーズの一つ)してみたり。動画の時間は1分で、ほぼ今の形です。 「こんなんで届くのかな」と思いながらでしたが、新たなフォーマットの1本目からTikTokで30万回くらい再生されたんです。この瞬間に「この届け方って届くんや」というのと、テーマが悪いんじゃなくて、伝え方、届け方に工夫が必要なだけなんだ、見たい、見てくれる人がいるんだということに気づきました。