年に一航海、北海道から大阪へ...北前船の交易で生まれた「大阪の昆布文化」
昆布に見る食文化の危機と未来のビジョン
現在、ほとんどを北海道で産し、その沿岸の全域で穫れる昆布だが、産地によって味わいや食感が違い、利用も異なる。 「京料理では道北沿岸を産地とする利尻昆布が重用され、大阪では道南産の真昆布が基本です」と教えてくれたのは、大阪の老舗昆布店「こんぶ土居」の四代目で代表取締役の土居純一さん。 利尻昆布は出汁が澄んで香り高く、素材の色や味を生かせ、真昆布は上品な甘みに特長がある。ほかにも、濃厚な出汁が取れる羅臼(らうす)昆布、煮ると柔らかく、そのものを食べるのに適した日高昆布などが知られる。 土居さんはかねてより、伝統的な自然食品としての昆布と昆布製品の製造にこだわり、店舗のサイトなどを通して情報発信をしてきた方でもある。昨年夏には、昆布の知識を広く知らせるための場として「大阪昆布ミュージアム」を店舗の近くに開設。そこにある思いを聞いた。 「大阪は昔から昆布の食文化の中心地でしたが、その文化は近年、世界的に高く評価されるようになっています。それは美味の追求や、健康を育む栄養の面からです。また、昆布をはじめとした海藻が環境に果たす役割が認知され、それを活用するエコロジー的側面においても注目されています」。 しかし、その一方にある日本の現状を土居さんは憂える。 「昆布の生産量、消費量ということでは30数年前から比べると約4割の量まで減少しています。そのなかで潰れてしまった大阪の昆布屋も少なくありません。昆布ミュージアムの創設は、大阪の昆布文化がなくなるのではないかという私なりの危機感の表れです」。 土居さんは、20数年前から真昆布の代表的産地である函館市川汲(かっくみ)を毎年、訪ねて昆布漁にも参加してきたという。昆布の収穫から加工、販売、消費までを見通すその知見が昆布ミュージアムに生かされている。 「この先のビジョンが描けるかどうかが大切」とも土居さんはいう。日本伝統の自然食を見直し、日々の糧に生かす。そうした豊かな食文化への可能性の端緒を、昆布という食材に見たように思う。
兼田由紀夫(フリー編集者)