カニエ・ウエストが「魔改造」した安藤忠雄建築、22億円の値下げも買い手つかず
ラッパーでデザイナーのYe(イェ)ことカニエ・ウエストが、カリフォルニア州マリブにある安藤忠雄設計の邸宅を2022年から売りに出している。しかし買い手が付かず、廃墟化しつつあることが明らかになった。 アートへの造詣が深い事でも知られるYe(イェ)ことカニエ・ウエストは、2021年9月、アメリカ・カリフォルニア州マリブビーチで、憧れだった安藤忠雄建築を手に入れた。ウォール街の金融家、リチャード・サックスが所有していた物件で、敷地面積は372平方メートル。購入価格は5725万ドル(現在の為替で約90億円)だった。 建築家の安藤忠雄は1995年にプリツカー賞を受賞。国内では東京の表参道ヒルズや直島の地中美術館など数多くの建築を手掛けており、海外ではアメリカのピューリッツァー美術館やフォートワース近代美術館、ドイツのホンブロイッヒ・ランゲン美術館などが知られている。著名人の私邸も複数手がけているが、このマリブビーチにある邸宅は、建築学的に重要なものとされていた。 ウエストは、自身が以前コラボレートしたことのあるジェームズ・タレルなど、ミニマリズムの巨匠たちから大きな影響を受けてきた。日本の地中美術館からメキシコのモンテレイ工科大学キャンパスまで世界中に点在するタレルの代表作「スカイスペース」は、何もない空間に光だけで構成された作品で、かつてウエストは、「我々はタレルの空間に住むことになるだろう」とツイートしたことがある。ニューヨーカー誌によると、ウエストは過去に、自身のコンサートのためにタレル作品を思わせる「巨大な球体」を作ろうとして失敗したこともあったという。 そんなタレルの「スカイスペース」を再現しようとしたのか、ウエストは2021年9月にトニー・サクソンという名前の便利屋を雇って、自身が購入したマリブビーチの安藤建築から、キッチン、バスルーム、作り付けの収納など現代生活に不可欠な設備をことごとく撤去し、最終的には全ての窓とドア、2本の金属製の煙突、ガラスの手すり、暖房と配管を取り除くという大改装を行った。『The New Yoker』誌はサクソン自身への取材などを通じて、その一部始終を伝えている。 この記事によれば、サクソンは改装中、住み込みで「プロジェクト・マネージャー、管理人、24時間体制の警備員」を務めたという。彼は1日16時間労働を強いられ、ジョージ・コンドの絵が飾られた、断熱材が露出した部屋にマットレスを敷いて寝起きしていたと証言している。 しかしある日、ウエストが家の電気系統を取り壊して配線を大型発電機に取り替えると言い出したので、火災の危険性を理由に拒否すると、サクソンは突然解雇されてしまった。こうして2023年9月、サクソンは過酷な環境下で長時間労働を強いられたとしてウエストを訴えている。 ウエストは2022年にSNSでの反ユダヤ主義的な発言をきっかけに、アディダスとのスニーカー契約やギャップとのファッション契約などが次々に打ち切られ、億万長者としての地位を失った。そして同年、改装途中だったにもかかわらず、この邸宅を売りに出した。販売を仲介したのがオッペンハイム・グループで、販売価格は購入価格よりも425万ドル(現在の為替で約6億7000万円)安い5300万ドル(同・約83億4000万円)。販売時には改装前の画像が使われたが、買い手はつかず、2024年初めには3900万ドル(同・約61億4000万円)にまで値下げされた。 旧ウエスト邸は海に面した大きな窓が全て取り外されているため、ほぼ雨ざらしの状態だ。ニューヨーカー誌によると、現在は金属製の手すりは潮風で錆だらけになり、コンクリートの壁や床が「腐食し」、「穴が開き」、「傷だらけ」になっているという。
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