JR東日本社員の情熱で実現。“駅メロのカリスマ”が語る、最新駅メロ「JR-SHRシリーズ」制作秘話
「アーティストではなく、音楽の職人」
これまで数多くの駅メロを手掛けきた塩塚さんですが、自分のことをアーティストではなく、職人だと言い切ります。 塩塚「矢面に立って、自分の歌いたい曲を歌う方や演奏する方はアーティストだと思います。僕も人前に立ってしゃべったり歌ったりすることはありますが、作曲したり、アレンジしたりするのが本業です。だからアーティストではなく、音楽の職人なんです」 塩塚さんは音楽の職人として、「駅メロに関わるすべての人たちの思いを汲んで作曲している」そうです。 塩塚「駅メロの制作には、クライアントがいて、地域の住民がいて、小川さんがいて、僕もいます。全員が作曲に関わっているので、みんなが良かったと思えるような曲作りを目指していますね。 これは精神的に心がけていることですが、具体的な作業の面で意識していることもあります。 駅の端から端まで音がちゃんと聴こえるように、音の数が少なくなるようにしていることと、10秒で終わる短い駅メロの中にもストーリー性が感じられるように起承転結を作るようにしています。 そして、伴奏とメロディーが対話をしているように絡み合いながら、音楽として進行していく『対位法』のような、あらゆるテクニックを駆使して僕は駅メロを作曲しています」
駅メロの第一人者、「鉄のみゅーじしゃん」として脚光を浴びる塩塚さんですが、「僕はラッキーだった」と謙遜しながら、こう続けました。 塩塚「僕が駅メロの作曲を始めた1990年代の前半は、駅メロを採用していない駅がけっこうありました。そんな中で、僕が作曲した作品は最新曲だったんです。 当然、駅メロを用意したい各駅の担当者の耳に入る。だから新規に駅メロを導入するときに、僕の曲が採用されるケースが多かったと思います」 塩塚さんが運を味方に付けたのも事実でしょう。ですが、運だけで30年以上にわたって愛される音楽を生み出せるわけがありません。 わずか10秒程の短い曲にも真摯に取り組むからこそ、塩塚さんが手掛ける駅メロは、多くの人々の日常に溶け込み、生活の一部となるほど親しまれているのではないでしょうか。 執筆:黒田知道 デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio) 編集:奈良岡崇子