この地球に生を受けた以上、切っても切れない関係にある…じつは、DNA複製のエラーが「欠かせないもの」である理由
「繰り返しの数」の多型
そのようなコドン(アミノ酸)の繰り返しのなかで最も有名なものの一つは、「ハンチントン病」という神経変性疾患の原因遺伝子である「ハンチンチン遺伝子」に見られる繰り返しだろう。 ハンチンチン遺伝子の一部には、アミノ酸の一つである「グルタミン」をコードする「CAG」というコドンが、6~35個も繰り返して存在している。この繰り返し部分を「CAGリピート」とよぶ。CAGリピートの数によって、つくられるハンチンチンタンパク質には6~35個のグルタミンの鎖(ポリグルタミン)のバリエーションができる。 ところが、このCAGリピートの数がなんらかの理由でさらに伸びてしまい、36個以上になってしまうと、作用機序は不明だが神経細胞に異常が生じ、ハンチントン病を発症するのである(図「ハンチントン病の原因遺伝子=ハンチンチン遺伝子」)。 では、こうした繰り返しの数はなぜ、どのようなメカニズムで伸びてしまうのだろう。
複製スリップ
前回の記事で、DNAポリメラーゼには〈いい加減〉なところがあるという話をしたが、ここでもう一つ、重要な〈いい加減さ〉が登場する。 DNAポリメラーゼは、まるで「ジャックと豆の木」のジャックがつねに豆の木の幹にしがみついていなければならないといったように、「つねに鋳型となるDNAに張りついて複製をおこなっている」わけではない、という考えがある。 DNAポリメラーゼは、常時がっちりと鋳型にしがみついているのではなく、じつはかなりゆらいでいて、スーパーマリオがときどきぴょんぴょんと飛び上がるがごとく、鋳型からときに離れたり、ふたたび取りついたりといったことを、目にも止まらぬ速さで繰り返しながらDNAの複製をおこなっているのではないかというものである。 その結果、鋳型が短い塩基配列の繰り返しでできているような場合、すなわちCAGリピートの場合、鋳型からヒョッと離れて、ふたたびフイッと取りつく際に、誤って一つ手前のCAGにDNAポリメラーゼがくっついてしまうことによって、3塩基分が多く合成されてしまう。 このような現象を「複製スリップ」という。 要するに、まるでDNAポリメラーゼが雪道で足を滑らせる歩行者のように、「おおっと!」とばかりに滑っているかのように見えるというわけである(図「複製スリップ」)。