日本のオーバーツーリズム対策はどうなっているのか? その本質と取り組みを、観光庁の参事官に聞いてきた
先駆モデル地域から浮かび上がる課題
さまざまな施策が打ち出されるなかでも、オーバーツーリズム対策の中核として濱本氏が挙げたのが、「先駆モデル地域」の取り組みだ。 過度な混雑やマナー違反に取り組む先駆モデル地域を、2024年度に観光庁の事業として採択した。具体的には、京都の手ぶら観光拡充や地下鉄などへの誘導、箱根のデジタルマップを活用した分散・平準化、白川郷の発地国・地域の分析に基づくタビマエを含むマナー啓発強化、西表島のエコツーリズム推進法に基づく立ち入り制限、阿蘇のEV・自転車活用による環境負荷の軽減、佐渡の島内二次交通強化などと、ざっと各地域の構想を抜き出すだけでも課題が多岐に及んでいることが浮き彫りになる。 観光庁ではオーバーツーリズム対策と同時に、地域に対して「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」ロゴマークの取得を推奨している。オーバーツーリズムの改善、解決は、持続観光な観光地づくりの推進の一環ともいえるからだ。 JSTS-Dは、UNツーリズムなどの国際基準に準拠しながら、日本の自治体やDMOが観光客と地域住民双方に配慮し、持続可能な地域マジメントをおこなうためのツールとして開発したもの。達成すべき分野は、持続可能なマネジメント、社会経済のサステナビリティ、文化的サステナビリティ、環境のサステナビリティの4つあるが、濱本氏は「すべて目指すのではなく、まずは、とりあえずできることからやってみることが、自分たちのつくりたい地域のビジョン、そしてオーバーツーリズム対策にもつながるはずだ」と強調する。
地域一丸となった意思形成が重要
このように先駆モデルとして、地域ごとの特性・誘客戦略・課題に応じた対策を進めているわけだが、特筆すべきは採択の要件は「地域の関係者による協議の場において、具体的な対策に係る計画を策定し、取組を実施する」が盛り込まれたこと。自治体、交通、旅行会社、宿泊施設、物販など、観光に関わる関係者が協議する場を促すものである。 そのねらいについて濱本氏は、「地域の関係者で率直に話し合う協議の場をつくり、意思形成することが重要。もちろん、それぞれの民間ビジネスもある一方で、オーバーツーリズム対策にはチームとしての統一感が求められる」と説明する。オーバーツーリズム対策を協議する場ではあるが、その中で地域の目指す未来の姿を共有し、持続可能な地域づくりに向けた話し合いにつながっているという。地域の現場から「JSTS-Dの挑戦も含め、みんなで話し合うことで自分たちの地域が未来に向けて目指す姿が見えてきた」という声も上がっている。 こうした各地域の取り組みは、それぞれの課題解決を含めて今まさに進行しており、濱本氏は「2025年の前半には、事例集、課題の整理など何らかの形で全国に共有する仕組みをつくりたい」と意気込む。 また、観光客のマナー違反行為については、日本人にとって当たり前のエチケットが訪日外国人旅行者にとって必ずしも当たり前ではないという問題もはらんでいる。そのため、観光庁では、観光客に意識してほしいマナーなどを7つの行動例で示したポスター・リーフレット(5言語)、禁止する事項(14種類)や推奨する行動(8種類)を図式化したピクトグラムを補助表記(5言語)と併せて作成し、公表している。 濱本氏は「禁止・抑制が必要な場面はもちろんあるが、それだけでなく『こうすれば混雑を避けられます』『こういう行動を取ってくれればみんなが助かります』といったポジティブな発信をおこなっていくことを念頭に置いて取り組んでおり、地域のみなさんも自分たちに合った形で活用してもらえれば」と話す。 「繰り返しになるが、まずはそれぞれの目の前の課題に“絆創膏”で対応しつつ、地域の未来に向けて“体質改善”を図ることが大切だ」と力を込めた濱本氏。目の前の課題であるオーバーツーリズム対策と、未来に向けて地域のあるべき姿を描き、持続可能な観光地づくりのための改善を推進することはつながっている。 その言葉からは、とかく“影”ととらえられやすいオーバーツーリズム問題が、対策によって地域がより“光”を放つ可能性を秘めていることが浮かび上がってくる。 聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫 記事:野間麻衣子
トラベルボイス編集部