米国にシリア「出口」戦略はあるのか 仏テロで潮目変わる?
潮目は変わったのか
前述のようにアメリカのシリアへの本格介入に慎重な意見が多かったのは、泥沼化への恐怖に他なりません。シリア情勢がどうなるのか、非常に分かりにくく、前述のように、その後の展開も単に「アサドを追い出せばよい」という単純な話ではありませんでした。 それでも今回のパリ同時多発テロでアメリカの状況も大きく変わりつつあります。国際協力が進む中、2016年大統領選挙への立候補者たちはさらに積極的な「イスラム国」対策を主張し、イスラム国叩きの度合いをアピールしています。今回のテロを受け、オバマ政権はテロ被害の当事国となったフランスのほか、ロシア、イギリスとの関係を強化し、「イスラム国」に対する空爆の強化を急いでいます。 アサド政権を見るアメリカの見方も少し変わりつつあります。「シリアにアサド大統領がいる限り、内戦は終結しない」とし、最終的にアサド大統領を退陣させる道筋ははっきりと明言しています。 また、世論も変化しつつあります。複数の世論調査の結果によると、圧倒的多数とは言えないものの、6割から7割程度が「イスラム国」に対してアメリカがさらに軍事的に積極的な姿勢を示さないといけないと考えています。この背景にはパリ同時多発テロに象徴されるように、「イスラム国」の状況が抜き先ならない段階まで至ったことがあります。また、次の標的としてアメリカ本土も狙われるといった切迫感も高まっています。 この「アサド退陣」の部分についてはアメリカ、そして欧州各国も今後も原則として譲らない部分かと思われますが、一方で、これはあくまでも建前であり、まずは「イスラム国」の脅威への対処の方を優先し、とりあえずはアサド政権を延命させるという流れがオバマ政権のシナリオにあるようにみえます。当分は呉越同舟という形になりますが、「イスラム国」対策が進んだ後にアサドを退陣させ、シリア民主化を進めていくと決めておいた方が現実的です。「イスラム国という大きな敵をたたくために、オバマ政権はロシア、そして場合によってはアサド政権と協力しろ」というのは、アメリカの国際政治学者の中でもリアリストと呼ばれる人たちがここ1年ほど主張してきた点であり、実際にこのとおりに状況が動きつつあります。