米国にシリア「出口」戦略はあるのか 仏テロで潮目変わる?
「イスラム国」の台頭
アサド政権攻撃が頓挫してから1年もたたない2014年夏ごろには、シリアはさらに複雑な状況になっていきます。イラク、シリア両国内で「イスラム国」が急速に勢いを増したためです。「イスラム国」はシリア国内ではアサド政権打倒を進めているため、もしアメリカが「イスラム国」をたたけば、アサド政権を助けてしまうことになります。アメリカとしては、どっちつかずの状況になる中、いまのように「イスラム国」のさらなる膨張を続けていきます。 アサド政権を空爆する機会を逸したことが、「イスラム国」の台頭を招いたという見方もあるかもしれませんが、これは結果論かもしれません。もし、アメリカがアサド政権への本格的な攻撃に入った場合、アサド政権を庇護するロシアとの対立が激しくなっていたと思われます。ウクライナ問題もあるため、米露間の「新冷戦」が激化し、その間隙をついて「イスラム国」がさらに膨張していたかもしれません。 アメリカが当初、目を付けたのは、アサド政権と「イスラム国」のどちらに対しても対抗勢力となる自由シリア軍ら穏健派の反体制勢力でした。穏健派勢力に武器供与などで支援しましたが、なかなか状況は改善しません。そんな中、2014年9月には、アメリカは「イスラム国」の活動地域に対する空爆を、それまでのイラクだけでなくシリアにまで拡大させました。空爆は戦略上、地上部隊との綿密な連携で進められるのですが、穏健派の反体制勢力との連携は十分なものとは言えませんでした。そんな中、自由シリア軍のアルカイダとの関係も次第に明らかになっていったため、アメリカの不信感は高まっていきます。
ロシア介入とパリ同時多発テロ
効果的な戦略が見当たらない中、アサド政権は延命し、「イスラム国」はさらに勢力を増していくという、オバマ政権にとっては八方ふさがりの展開となっていきます。このようにアメリカのシリア戦略はなかなか、大きな成果が上がらなかったのですが、2015年9月末のロシアの介入で状況は動き出します。ウクライナ問題で対立を繰り返していた米露がここで「イスラム国」という共通の敵をたたくために協力します。ロシアの方は、アサド政権を助けるというのも狙いにあったようで、「イスラム国」攻撃という名目の中、ロシアはアサド政権にも対抗している自由シリア軍などを攻撃していたとして、大きな問題となりました。 それでも「イスラム国」に対しても大きな打撃となったのは間違いなさそうです。11月12日のテレビのインタビューで、オバマ大統領は「イスラム国の勢力は封じ込めた」と発言したほどです。ただ、その翌日にパリ同時多発テロが起こってしまい、オバマ大統領の面目は丸つぶれになってしまいました。 ただ、このテロ事件はロシアの参加で追い詰められた「イスラム国」側の逆襲の次の一手とみることができるかもしれません。「イスラム国」が有志連合に参加するフランスを対テロの輪から脱落させようとして揺さぶったのがこのテロであるという見方をする識者もいます。