米国にシリア「出口」戦略はあるのか 仏テロで潮目変わる?
混迷を続けるシリア情勢。アメリカはシリアをどうしようとしていたのか、今後どうしようとしているのか。アメリカ政治に詳しい上智大学教授の前嶋和弘氏が「出口」戦略について解説します。 【写真】シリアに軍事介入 ロシアはなぜアサド政権を守ろうとするのか?
アサド政権打倒の頓挫
アメリカのシリア政策が、11月13日のフランス・パリでの同時多発テロ事件をきっかけに大きく変わりつつあります。アメリカでは各国との協力体制の下、これまで以上にイスラム国(IS)との戦いを本格化させていく機運が高まっているほか、予備選スタート間近で本格化しつつある大統領選挙でも「イスラム国」対策は大きな争点に急浮上しています。一方で、いまだ、本格介入に慎重な声も少なくないのも現状です。パリ同時多発テロで、アメリカの今後のシリア戦略はどうなっていくのでしょうか。 ことごとくうまくいかなったここ数年のアメリカのシリア戦略をまず、振り返ってみます。オバマ政権のそもそものシリア政策には、特定の戦略目標があったとはいいがたく、シリア国民への圧政を続けるアサド政権に対し、人道的な観点から介入すべきなのか、もし介入するとしたら、どの時点でどのような形で介入すべきかという点でした。 アメリカが介入する可能性があったのが、2013年8月から9月の時期でした。アサド政権が自国民に対して化学兵器を使ったとされる事件が明らかになったためで、ケリー国務長官は2013年8月30日の記者会見で目をはらして「アサド大統領は殺人者」と激しく非難しました。化学兵器の使用は、オバマ政権が事前にアサド大統領につきつめた「レッドライン(越えてはならない一線)」であったため、この記者会見でアメリカのシリアへの攻撃が秒読み段階であるようにみえました。 しかし、実際にシリアへの本格介入を行った場合、かなりの長期化も予想されました。アフガニスタンとイラクという長期化した2つの戦争にアメリカ国民は疲弊していたため、世論はシリア攻撃に慎重でした。オバマ政権発足時の2009年には、大統領の政党と同じ民主党が上下両院で多数派を占めるという「統一政府」で大統領は政策を動かしやすかったのですが、2013年の時点ではこのうち、すでに共和党が下院の多数派を奪還していました。世論を反映して、議会内共和党はアサド政権攻撃に反対でまとまり、結局、一時は極めて現実味を帯びていたシリアへの軍事介入は頓挫します。その後、結局、ロシアのプーチン大統領が介入することで、アサド政権は現在まで延命しています。