「プライド」と「生活」高齢者の免許返納を考える - 池袋暴走事故から2年
2019年4月19日、当時87歳のドライバーが運転する車が暴走し、3歳の女児と母の2名が死亡、9名が負傷する大惨事となった「池袋暴走事故」。 加害者は自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)容疑で在宅起訴され、現在も裁判が続いています。 妻と娘を失った遺族が、積極的に交通事故の悲惨さを訴え、再発防止活動を続けてきた影響もあって、高齢者の免許自主返納への機運が高まりました。 事故から2年たったいま、高齢ドライバーに対して私たちはどう向き合えば良いのでしょうか。(Yahoo!ニュースVoice)
“ブレーキ痕”のなかった事故現場。加害者はアクセルとブレーキを踏み間違えた可能性が高い
池袋暴走事故の翌日、現場を確認した元交通事故捜査官で交通事故鑑定人の熊谷宗徳さんが事故を振り返る。 「母子がひかれた事故現場にはブレーキ痕がなく、150メートルほど手前に、加速する時に印象されるタイヤ痕がありました。つまり、そこでアクセルを踏み込んだことになります。また、後日、事故現場付近の防犯カメラの映像解析をしたところ、どんどん加速しながら事故現場に向かっている車の姿が確認できました。これは間違いなくアクセルを踏み続けていた状態の事故だなと感じました。池袋暴走事故の被告は否定していますが、アクセルとブレーキの踏み間違いは運動能力、判断能力が鈍ってきた高齢ドライバーによく見られ、大きな事故に繋がるケースが多いのです」
池袋暴走事故をきっかけに、高齢者の運転免許自主返納数は増加
警察庁の運転免許統計によると、2020年に免許を自主返納した人は55万2381人。2010年は6万5605人と、10年間で10倍近く増加した。 池袋暴走事故が発生した2019年に免許を自主返納した人の数は、60万1022人で、免許返納制度導入以降最多となった。 前出の熊谷さんは、「運転免許証の返納には、絶対的に本人の意思が重要」と付言する。 実際に、自らの意思で免許を返納した調布市高齢者免許自主返納推進市民会議代表の山添登さん(85歳)が、自身の経験を語る。山添さんは60代後半で免許を返納した。 「もともとそれほど運転は好きではなかったので、返納は苦ではありませんでした。何より、事故を起こすと相手に迷惑を掛け、自分自身も精神的に参ってしまうと思うんです。私が見る限り、教養の高いひとほどプライドが高く、『自分はまだまだ大丈夫』だと思って運転したがります。でも本当はそれが危険なのです。もしも自分が事故を起こしたら、自分や家族がどうなってしまうか、想像してみてほしい」