あまり報道されない重傷事故の「その後」 被害者の母親と、足切断の男性が語った苦難
「そちらの過失割合は15%」と保険会社
年が明けると、保険会社から過失割合の説明があった。恵子さんが振り返る。 「担当者から『過失は運転手側が85%もつので、そちらは残りの15%をのんでほしい』という話でした。誰がどうやって決めたのですかと聞くと、過去の判例からと言われました。娘はスクールゾーンの道路を横断しようとしただけだし、運転手の男性も全面的に非を認めて謝罪もしてくれたのに、なぜ15%も責任があるのかと疑問を感じました」
納得のいかない恵子さんに、民事裁判を勧めてきたのは保険会社のほうだったという。恵子さんは弁護士に相談したうえで、事故から2年半ほど経った2019年7月に損害賠償を求めて運転手を提訴した。 1年後、裁判は和解した。娘の20歳の誕生日までには区切りをつけたいという親としての思いが恵子さんにあったからだ。 「裁判官は娘の過失を5%まで下げてくれました。嬉しかったのですが、横断歩道ではない場所での事故は、運転手側に過失100%とはならないのですね……」
裁判にかかった弁護士費用や5%の過失相殺分については、すべて恵子さんの夫が自分の車にかけていた自動車保険の「弁護士費用特約」や「人身傷害補償保険」で補填されたという。 「これはとても助かりました。今回のことで、自動車保険は加害者になったときだけでなく、被害者になったとき、自分と家族の身を守るために必要なのだということを痛感しました」 和解したことを受け、運転手の保険会社に取材を申し込んだ。なぜ被害者の過失割合を当初15%と主張したのか、裁判で5%に下がって和解したことについて見解を尋ねたが、「個別の案件については答えられない」との回答だった。
事故で消えてしまった記憶
2020年11月、真由さんは成人式の振り袖に身を包み、写真の前撮りを行った。事故から4年が経ち、痛みは和らいだが、頬に残った傷は「醜状痕」に当たると判断され、自賠責の後遺障害7級12号に認定された。足の傷は今も気になり、ミニスカートをはくことができない。過去の記憶も一部失ったままだ。 真由さんは言う。 「小学生のころ、家族で行ったディズニーランドや修学旅行など、楽しかったはずの記憶は事故を境に消えたままです。体の傷もそうですが、家族と話していても楽しかった思い出を語り合えないことが、とてもつらいです」