あまり報道されない重傷事故の「その後」 被害者の母親と、足切断の男性が語った苦難
時速40キロでノーブレーキで衝突
事故は見通しの良い一方通行の道で起こった。時速30キロ規制の道を40キロで走行してきた軽乗用車が、道路を横断中の真由さんにノーブレーキで衝突したのだ。
フロントガラスに頭を強く打ちつけた真由さんをボンネットに乗せた車は、そのまま約15メートル走行して急ブレーキをかけ、真由さんはその衝撃でさらに10メートル飛ばされた。 運転していたのは44歳の男性だった。警察の調べに「西日が眩しくてサンバイザーを下ろそうと下を向いたら、はねてしまった」と供述したという。
救急車で病院に搬送された真由さんは、すぐに精密検査を受けた。脳出血や脳挫傷は見られなかったものの、ひどいめまいで気分が悪く、その日の朝からの記憶はなくなっていた。首や腰の痛みも訴え、左手首は骨折していた。
事故から2日後、まだ歩くことはできなかったが、病院から頭部に異常がないことなどを理由に退院を促された。恵子さんは「こんな状態で……」と困惑しながらも、その2日後に退院した。
自宅でのさまざまな苦労
何とか車で帰宅したものの、自宅はバリアフリーではないため、さまざまな苦労があった。恵子さんが振り返る。 「部屋にも廊下にも手すりがないため、娘がトイレに行くときは家族の誰かが肩を貸して介助していました。両手をまともに動かせないので、食事も満足にとれません。全身を強打しているので、布団に入って寝るのも起き上がるのも、しんどそうでした」
さらに恵子さんが苦労したのは、運転手の男性が加入していた保険会社とのやりとりだった。真由さんの負担軽減のため、介護用ベッドをレンタルすることにしたのだが、保険会社に告げると、「事故との因果関係はあるんですか」と細かく聞かれたという。 11月末、真由さんの強い希望で高校に通うことを決めたときも同じだった。 「タクシーで通学する必要はあるのですか。まだ治らないんですか」と難色を示したという。 なぜ、保険会社はこのような対応をしたのか。公道を走るすべての車やバイクの所有者には、自賠責保険の加入が義務づけられている。相手にけが(傷害)をさせたときの支払い上限は120万円だ。しかし重傷事故の場合、入院費や治療費だけですぐに120万円を超えてしまうため、自賠責のオーバー分は運転者が任意でかけている対人自動車保険からの支払いとなる。そのため、保険会社の担当者が被害者側に、事故による支出かどうかを細かく聞き、ときに抑制することもあるのだ。