すき家は何が「パワーアップ」したのか?
ゼンショー(本社・東京都)が展開する牛丼チェーン「すき家」で3月以降、「パワーアップ工事」などとうたった一時休業が各地で相次いだ。その後リニューアルオープンが相次いでおり、その店舗数は4月23日から6月13日までの間に、全国80店に上る。ただ、新店舗を利用した人からは「何がパワーアップしたのか分からない」という声もちらほら聞こえる。一体、すき家の何がパワーアップしたのか? 6月13日、久々に晴れ間が広がった東京・大田区。車の交通量の多い環状7号線沿いに、この日リニューアルオープンした「すき家環七山王店」を訪ねた。店の前には、リニューアルオープンを告げる赤いのぼりが3本、控えめにはためいていた。ドアをくぐると、店内は清潔で広く明るく感じられた。カウンター席のほか、15人分のテーブル席が目についたが、お昼時にもかかわらず、お客は4人のみ。一方で、厨房に目をやると、学生風の若い男性店員が3人いるのに気づいた。すき家は1人で店を切り盛りしているイメージがあったので、少し驚いた。 カウンター席に着席し、牛丼の並を注文。すると10数秒で運ばれてきた。個人的には牛丼といえば吉野家で、すき家の牛丼は初めて。なので「パワーアップ」前との比較は分からないが、普通においしく感じられた。これで270円とは、改めて牛丼のコストパフォーマンスの高さに感じ入った。店員の接客はていねいで、笑顔もマニュアルぽさがなく自然で好感が持てた。会計時、「お店はどこがリニューアル前と変わったのですか?」と尋ねた。すると、その男性は「店内の清掃とかして…」と言うので、「内装も?」と聞くと「いや、内装はあまり…」と少し困った表情を見せた。店内をきれいにしただけで「パワーアップ」なのだろうか? ネット上では2月ごろから、仕事の負担の重さを苦にして、すき家のアルバイト店員らが相次いで退職したことが話題になった。これが原因で、すき家は「一時休業」に追い込まれた、とされた。ゼンショーの発表によると、2~4月の間に一時休業や時間帯休業した店舗は、最大123店舗(4月12日)に上ったという。だが、ゼンショー側は3月24日、すき家のリニューアルを始めると発表した際、一言も「従業員不足」には言及せず、あくまで「厨房の強化と、お客様により快適に過ごしていただけるフロア作り」の改装だとしていた。 しかし、批判の高まりに配慮してか、4月17日の発表で初めて「従業員の負担を軽減するための厨房能力の強化」、「人手不足による従業員の採用難」という表現が登場。その上で「『すき家』従業員の負担増が深刻化したことを重く受け止め、店舗の労働環境改善を経営の最重要課題に設定」したと表明するに至った。 すると、今回の「パワーアップ」も、従業員の労働環境を良くすることが主眼なのだろうか?ゼンショーの広報担当者に聞くと、「いえ、労働環境というより、あくまで商品のクオリティを上げ、きれいな環境でお客様に提供することが目的です」と、否定する言葉が返ってきた。今回のリニューアルは数年に一度、定期的に実施されているもので、3月に公募増資を実施して267億円を調達した。今回の人手不足問題とは別に、もともと計画されていたものだという。