医師が警鐘を鳴らす「筋トレブーム」の落とし穴 筋肉増強剤で「胸筋」が「おっぱい」になる副作用も
筋トレがブームだ。だが、たくましい肉体を手に入れたいとの思いにかられ過ぎて、筋肉増強作用のある一部のステロイドに手を出し、男性なら乳房が女性化したり、精子数が減少するなどの副作用に苦しむ人も少なくない。自己責任だと開き直る使用者もいるが、専門家は「気がつけば依存症のようになって、簡単に後戻りできないのが筋肉増強剤の怖さ」と警鐘を鳴らす。筋トレブームだからこそ、知っておくべき副作用を医師に取材した。 【写真】自宅に10万円の器具&専属トレーナーがいるお笑い芸人はこちら * * * 筋トレ愛好家が使うアナボリックステロイドという筋肉増強剤がある。これは、男性ホルモンであるテストステロンと似た性質を持っており、摂取すると見違えるように筋肉量が増えるというふれこみだが、使用者らが集う、とあるインターネットの掲示板にはこんな主旨の記述がある。 「乳首にしこりがある。兆候なしに、いきなりガイノ(=女性化乳房)が発症するのか」 「精液が著しく少なくなった」 「ニキビができた」 摂取の仕方によっては副作用とみられる症状が出ているほか、使用に関する悩み相談のような書き込みも少なからずあった。 「アナボリックステロイドをすでに使っている人や、これから使用を検討している人の質問に対し、使用歴が長いと思われる『先生役』の人が回答し、アドバイスをしているのです」 こう話すのはドーピング問題を長く研究し、そのリスクについて警鐘を鳴らし続けている医師で十文字学園女子大学教授の高橋正人さんだ。
■高校生や大学生にまで広がっている アナボリックステロイドは、国内で治療で使う場合は処方箋が必要だが、海外からであれば個人で輸入できる。 高橋さんがドーピングの実態を調べ始めた1990年代初めには、すでにボディービルダーやプロレスラーを中心にアナボリックステロイドが出回っていたことが確認できたという。 他にも、アスリートがスポーツジムに通ううちに、すでにアナボリックステロイドを使用している「キン肉マン」たちと出会ったことで刺激を受け、彼らから指南を受けて手を出すようになったケースも散見されたという。 「今ではネットで購入できるようになり、大学生や高校生にまで広がっています。ちょっと昔ですが、ある高校の部活動の監督から、生徒が筋肉増強剤に手を出していて、やめようとしないと相談を受けたことがありました」(高橋さん) アナボリックステロイドには複数の種類があるが、共通するのはテストステロンを含めた体全体の男性ホルモンの血中濃度を高めることにより、筋肉の増強を促す作用があること。とはいえ、効果には個人差があるようだ。 「少し使用しただけでムキムキになれる人もいれば、効果が出ない人もいます。同じように、副作用の出方についても個人差があります」(高橋さん) そもそも、筋肉増強剤とは人間の生理的範囲を超えて、無理やり筋肉を強くする薬のこと。想像を超えた副作用は当然あると考えるべきだ。アナボリックステロイドは男性ホルモンを女性ホルモンに変換させる作用もあり、過剰な投与によりホルモンバランスが崩れることがある。