表面化しにくい「シニア男性の一人暮らし」(前)…その実態と究極の理想の「終着点」
老い本ブームの中で、高齢一人暮らし女性の書籍は数多く出版される一方、シニア男性の一人暮らしにはなかなかスポットが当たりません。そんな少数派の高齢一人暮らし男性の実態と、彼らの哲学、理想とする死に方について述べていきます。 本記事は、表面化しにくい「シニア男性の一人暮らし」(後)…谷川俊太郎が三度の離婚を経て得た「家族観」に続きます。 【エッセイスト・酒井順子さんが、昭和史に残る名作から近年のベストセラーまで、あらゆる老い本を分析し、日本の高齢化社会や老いの精神史を鮮やかに解き明かしていく注目の新刊『老いを読む 老いを書く』(講談社現代新書)。本記事は同書より抜粋・編集したものです。】
圧倒的に女性が多い高齢一人暮らし
シニア男性で一人暮らしの本を出している人は、ほとんど目につかない。2024年(令和6)には、人気男性シニアユーチューバー、ぺこりーのによる『妻より長生きしてしまいまして。 金はないが暇はある、老人ひとり愉快に暮らす』が刊行され、一人暮らしのノウハウなどが紹介された。帯には「ようやく妻が死んでくれた。ついに自由を手に入れたぞ!」とあるが、本文においては、妻に先立たれた寂しさから逃れられない様子が記されている。 そもそも女性の平均寿命の方が長いので、妻が夫を看取ってその後、一人暮らしとなる確率の方が高いと言うことはできよう。内閣府の調査(2020年)によると、65歳以上の高齢者で一人暮らしをしている女性は約440万人であるのに対して、男性は約230万人と、半分程度。高齢一人暮らしの世帯は、圧倒的に女性が多いのだ。 家事能力の差も、関わってこよう。現在の高齢者は、妻の専業主婦率が高く、男性が家事を担う感覚がまだ育っていない世代。男性が妻に先立たれた場合、途端に日々の生活に困窮しがちである。 妻に先立たれた男性を見ていると、経済力を豊富に持つ人の場合は、すぐに再婚するか、妻に類した女性パートナーを身近に置いて家事を担ってもらうというケースが多いものである。 そうでない男性の場合は、妻亡き後、栄養不足になって激やせしたり、反対にコンビニ食ばかりでカロリー過多となって激太りしたりと、健康を害する人が多い。妻を追うように亡くなる人もいるのであり、彼等はひとりになると、途端に生活弱者となってしまうのだ。