「日米金利差が縮小→円高」連想は正しい? 為替を決めるものは何か
米連邦準備理事会(FRB)は19日(日本時間20日)の連邦公開市場委員会(FOMC)で、2019年は利上げのペースを鈍化させる方針を打ち出しました。日米の金利差と為替の関係について、第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
「金利平価説」と「購買力平価説」
FRBの金融引き締めが2019年に転機を向かえるとの見方が支配的になる中、為替市場では米国の金利低下を前提に「日米金利差縮小→円高」といった連想が働いているようです。しかしながら、最近の円相場USD/JPYは日米金利差との関係が希薄になっており、そうしたシンプルな反応がみられるかは微妙なところです。そこで以下では、最も代表的な為替の決定理論である「金利平価説」と「購買力平価説」を踏まえつつ、日米金利差との付き合い方を考えていきます。 1985年以降、日米10年債の金利差は常に「米国>日本」の関係にあり、その差は3%程度で推移してきました。日々の相場解説でみられるような「日米金利差の拡大を受けてドル高・円安に推移」といった関係が成立するならば、この間のUSD/JPYが一貫して円安・ドル高となっても不思議ではありません。しかしながら、現実のUSD/JPYは長期にわたって下落し、そして興味深いことにその下落率は年率3%程度と結果的に金利平価説(カバーなし)が成立しています。金利平価説とは、金利水準の異なる2国間のどちらの通貨に投資してもリターンが同じように為替レートが調整されるという理論。つまり金利の高い通貨ほど通貨安、金利の低い通貨ほど通貨高という関係が成立します。これは「FRBの利上げ→日米金利差拡大→円安」という考え方とは真逆で、こうしたパズルから言えることは、日米金利差は絶対的存在でないということ。
短期的に見るか 長期的に見るか
あらためて強調するまでもありませんが、金利とインフレ率は表裏一体の関係にあることから、日米金利差は日米インフレ率格差に近似し、それは購買力平価から導出されるトレンドに近くなります。したがって短期では「高金利=通貨高」の関係が成立したとしても、インフレ率と金利が「米国>日本」である以上、長期・超長期では購買力平価や金利平価説に基づきUSD/JPYの理論値は円高方向に力が働くことになります。 足元で日米金利差とUSD/JPYの関係が希薄になっていますが、ここで再確認したいのは為替の説明において日米金利差が絶対的な存在ではないということです。また、一口に日米金利差といっても期間は翌日物から30年まであり、かつ名目と実質に分かれるなど、その用法はさまざまです。このように複数の尺度が存在するため、大半の局面でいずれかの尺度の日米金利差が説明力を持ち、それによって日米金利差が「優秀なモデル」として扱われている印象です。 前述の通り、2019年はFRBの利上げが停止される可能性があり、為替市場では日米金利差のさらなる縮小が円高につながるとの見方もあります。しかしながら、日米金利差と為替の関係は“例外”が多く、為替の予想に使いにくいのも事実です。「金利差だけで為替は決まらない」と考えておいたほうが良いでしょう。
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