インテル、アップル、TSMC…勝ち組に共通する「たった一人の天才」の破壊力とは?
それでは正しい発想とは何でしょうか? 正しい発想とは、台湾がやったように、「1人の突出した天才にすべてを委ね、あとはイチかバチか、うまくいくようにお祈りするだけ」という発想です。 アップルがなぜ次から次へと魅力的な製品を開発し世界をリードし続けているのか、それはジョニー・スロウジが完全に開発を任されて、1人で統括しているからです。 TSMCがなぜ世界一になれたのか、それはモリス・チャンが完全にすべてを1人で決めていたからです。 人がいないわけではありません。フラッシュメモリを発明した舛岡富士雄のような人は日本にも存在しています。 一握りの天才が率いる企業に何十年もの間、負け続けていることが明らかなのに、いまだに寄り合い所帯でジョニー・スロウジやモリス・チャンに勝てると考えているのはなぜでしょうか? 過去の成功体験がまだ記憶に残っているからかもしれません。かつては政府が音頭を取った大企業間の協調が成功モデルであったことは確かです。 たとえば、小宮隆太朗らによる『日本の産業政策』(1984)によると、「今日ではアメリカおよびヨーロッパの先進諸国、中国を含む東アジア諸国をはじめとする多くの開発途上国が、自国の産業発展のためになんらかの教訓を得ようとして、第2次大戦直後から今日に至るまでの日本の産業政策に強い関心を寄せている」とあります。 しかし、今ではそのように日本から学ぼうとしている国は皆無です。 このような国内と海外との認識の差は、日本だけがいまだに政府・大企業中心の発想から離れることができていないことから生じているのかもしれません。 2. なぜ「具体的用途や顧客が不明な投資」をしていては勝てないのか? 日本の国策プロジェクトのもう1つの不可解な点は、多くの場合、「スペック」を開発目標にしており、具体的用途も顧客も明確ではないことです。 世界最初のマイクロプロセッサは日本企業が高級電卓に使うために、インテルに発注したものでした。インテルは、ウインドウズを搭載したIBM互換PCを動かすためのマイクロプロセッサの開発に注力することで世界一の半導体企業となりました。天才設計者ジム・ケラーが天才と呼ばれるようになったのは、アップルのためにA4、A5チップを開発したからです。 このように、半導体の開発とはすべて特定のニーズを満たすために、顧客との接点で開発されたものです。単に高スペック化すればいいというものではありません。 モバイル端末のプロセッサで世界最大のARMはケンブリッジ大学発のベンチャー企業でしたが、彼らが最初に開発に成功した省電力型のチップはアップルのスティーブ・ジョブズが開発しようとしていたアップル・ニュートン向けに開発されたものでした。