インテル、アップル、TSMC…勝ち組に共通する「たった一人の天才」の破壊力とは?
アップル・ニュートンとはアイフォンの原型であり、想定していた機能もほぼ今のアイフォンのようなものでしたが、通信速度や処理速度が今とは比べ物にならないくらいに遅かったため、コンセプトだけが先行して使い物にならず、全く売れず、大失敗となりました。副産物としてARMを生んだということになります。 現在最も勢いのある半導体企業エヌビディアは、既述のようにソニーのプレイステーションなどのGPUを開発したことで実力をつけ、今のGPUの王者の地位を築きました。 フラッシュメモリの開発も、性能を高くするより値段を安くしてほしい、との顧客の要望に応えようとした舛岡の発想から生まれたものです。 TSMCもあくまで特定の顧客の特定のチップの製造を委託され、顧客ニーズに応えるためプロセス開発に邁進することを通じて、現在のファブレスを支えるファンドリーのビジネスを確立したのです。現在でも、アップルの最先端チップの製造を受託し、資金は世界一の金持ち企業のアップル持ちで技術力を向上させ続けています。 私の知る限り、用途を考えずに、ただ単に高スペック化しようとしてスタートし、成功した企業は一つもありません。いくら高スペックなものを開発しても誰も使わなければ、経済的な価値は生まれないからです。 ■ スペック追求は組織病理の表れ 「常に製品の高スペック化を目指し続ける」というのは大組織の病理の一種と考えられます。 クリステンセンが指摘したように、世の中にある商品の多くが無駄なスペック競争に陥っているのは、企業が「競合に勝つためにスペックを高め続ける」という選択をしているからです。 よく考えると顧客は誰もそのようなスペックを求めていないのに、企業は、スペック追求をやめて別の発想で異なるビジネスをする、というリスクのある判断をしたくない。なので、ほとんどの企業が漫然と高スペックを追求するのです。 顧客の要望を満たしながら、顧客の差別化につながる真に価値ある技術開発をするのには、天才が必要となりますが、天才がいなくても、誰でもできるのがスペック追求です。 サラリーマンの組織でも目標がスペック向上なら社内で異論が出にくく、エンジニアにとって開発目標も明確になり、官僚を説得して予算をもらうにもスペックだと誰でもわかるので明快で、いいことばかりです。 つまり、開発目標としてスペックを設定するのは最も簡単な意思決定であるということです。 そうした意思決定でただ一つ問題があるとすれば、そのように開発しても、「誰も買わない」ということです。
木谷 哲夫