「まずは俺たちの最低限の要求を呑め。話はそれからだ」トランプ大勝利で、プーチンが抱く「本音」と「懸念」
ロシアにとって交渉相手はあくまでもアメリカ
モスクワで国際政治学者とウクライナ侵攻について議論をすると「ロシアの責任が一番大きいのは事実だ」とは認めても、「ロシアを侵攻に追い込んだのは実質的にはアメリカだ」という解説をされる。彼らに言わせると「逆説的だが、安全保障の問題は双方に不満が残っている状態が一番安定している」のであり、「現在はそのバランスが崩れている」という考え方をする。 つまり、ロシアにとって安全保障というのは「もろい前提」の上に成り立っているとあるのに対し、トランプは最初からそのような話には興味がない。プーチンの「アメリカとのバランスを取り戻す」とトランプの「強いアメリカを取り戻す」は最初から噛み合わせが悪いのだ。 ロシアの国際政治学者のマインドでは「国際関係の中心はあくまでも大国関係であり、それ以外は従属変数に過ぎない」という考え方が定着している。ここでいう「大国」は「自国の運命を自国で決められる国」のような意味合いで理解される。筆者もこのような考え方をする必要はないが、「ロシア人はこのような考え方を取っている」という前提でロシアを相手にする必要があると考えている。そして、平和のためには、そのような「大国」以外の国を「大国」の従属変数にしないことが必要である。 これは決して概念上の話だけではなく、ロシア人の国際情勢認識に通じる話である。例えば、10月末に行われたモスクワでのシンポジウムでも専門家同士で「ロシアの交渉相手はあくまでもアメリカである。アメリカが話し合いに応じないのであれば、ウクライナにロシアの要求を飲ませるか、ウクライナからくる脅威を最小化するしかない」という議論をしていた。彼らの中では「ウクライナは交渉相手ですらない」というのは「当たり前の事実」として認識されている。そして、このようなエクストリームはロシアの国際政治学者たちのメインストリームとなっている。 この認識は日本に対しても当てはまる。極端な話、ロシアでは「日本の首都はワシントン」とまでは言わないものの、「重要な決定にはアメリカの関与がある程度ある」と考えられている。この「ある程度」には「アメリカにとって不都合なことがあれば、日本との合意はひっくり返される」から「アメリカの決定が日本に押し付けられる」が含まれている。ロシアは「日本と話し合いをしても、アメリカにひっくり返されてしまう可能性がある」という警戒をしている。このような論理は「用があったら、そちらの『飼い主』と直接話をする」という発想によく飛躍する。