「まずは俺たちの最低限の要求を呑め。話はそれからだ」トランプ大勝利で、プーチンが抱く「本音」と「懸念」
トランプはロシアへのシンパシーを抱いているが……
果たしてトランプはウクライナ戦争におけるロシアの「救世主」となれるのか? 少なくとも筆者の聞いたモスクワの国際政治学者とアメリカ・ウォッチャーたちはいずれも懐疑的だった。 彼らのいずれも、選挙前「仮にトランプ政権になったとしても、今のモスクワには2016年のトランプ初当選時のような幻想はとっくに消えている」と口をそろえていた。仮に当時のようにロシア議会でシャンパンを空けてトランプ当選を祝ったような人たちが出てきたとしても、彼らは「トランプは新参者ではなく、第一次政権の時にロシアにとって重要な問題をかなり荒らした『前科』を持っている」という。トランプは安全保障上重要だったオープンスカイ条約からの一方的な脱退、当時のウクライナ支援の拡大や対ロ制裁の強化など、ロシアとしては極めて「非友好的」な政策が取られたという不満がたまっていたのだという。 別のアメリカ屋は半月ほど前、「当時、傍から見る分にはトランプ政権は最高に面白かったが、あれを相手にした人たちは、大方、トランプが再選したら、『またあいつの相手をするのか』とため息をつくのではないか」と筆者に指摘した。 実際、「ある外務省高官の話を聞く機会に恵まれた」という人は筆者に対して「ずっとトランプ時代の悪口を言っていた」と教えてくれた。「それは大統領だった時の話か」と聞くと、「いや、2022年の話で、戦争が始まった後のことだった」という。その人の話では、「高官はバイデンに対しては相当恨みを抱いていたが、それ以上にトランプを憎んでいるようだった」のであり、両者の違いは「バイデンは最初からロシアの話を聞く耳を持たなかったが、トランプとその周辺の人は話を聞くものの、何度説明してもろくにとり扱ってくれなかった」のだという。 筆者の話を聞いた別の国際政治学者は「トランプの魅力はロシアに対してシンパシーを抱いていること」だが、「良くも悪くもそれだけ」なのだという。彼に言わせると、「トランプがもし大統領でなかった期間で猛勉強した上でロシアとウクライナの仲介をしようとしているのであれば、期待してみる価値があるのかもしれない。だが、現実はどうだ?『24時間で戦争を終わらせる』発言は所詮『移民が犬食っている』と同じノリで言っているだけではないか」のであり、仮にトランプが真剣にウクライナ戦争を終わらせようとしていたとしても、「トランプが本気だったとしても他の政権メンバーが同じ気持ちを持っているのか。アメリカのシンクタンクの人たちの書いたものを読んでも、ロシアに対する敵意か無関心さしか伝わってこない」とぼやいていた。 別のやり取りをした政治学者はトランプの再選に対し、「トランプが就任するまでには時間がある」ため、「トランプに何ができるのか」の前に、「バイデンが何を残していくのか」の方が問題になっているのだと言う。バイデンにとっては退任するまで「トランプがウクライナを簡単に見捨てない」ために、何が必要なのかだけでなく、「ウクライナを見捨てた後もウクライナが戦えるように何をするのか」が現在のロシアにとっての最大の関心事項である。 トランプはまだ「24時間で戦争を終わらせる」発言の真意を説明していない。願わくば、モスクワの専門家たちの「どうせ何も変わらない」という無力感を裏切るようなものをトランプが持ってくれているのだと期待する。おそらく、それはロシアを変えるよりもはるかに簡単なはずであるから。
村上 大空(モスクワ在住国際政治アナリスト)