「使うと燃費が悪化する」「ステルスブレーキはNG」! エンジンブレーキに関する「SNSの噂」に決着
安全のためにもエンブレや回生ブレーキは積極的に活用すべし
一方、エンジンブレーキについてはステルスブレーキ以外の批判もある。エンジンブレーキの強弱は変速比によって変わり、たとえば8速ATであれば8速より6速、4速より2速といった風に、低いギヤを選ぶほどエンジンブレーキは強くなる。同じ速度であれば、ギヤが低くなるほどエンジン回転は上がってしまう。そのため、「エンジンブレーキを多用するとエンジン回転が高まるので燃費に悪影響を及ぼす」といった声もあるようだ。 クルマ好きでも「アイドリング近辺で太いトルクを発揮する」といった表現をすることがあるなど、エンジン性能は回転数と密接に関係していると誤解しがちだが、たとえエンジンがレブリミット(許容回転上限)の近くでまわっていたとしてもアクセルペダルの開け具合で燃料噴射量は決まってくるものだ。 仮に1000rpmで最大トルクを発揮できるエンジンであっても、その回転数でアクセルを全開にしていなければスペックシートの性能は発揮していない。エンジンブレーキについても、低いギヤを選んで回転数が上がっていても、アクセルオフであれば基本的には燃料噴射はゼロとなるので、燃費への悪影響は考えづらい。 クルマ好きには釈迦に説法だろうが、エンジンブレーキで減速するのはポンピングロスが影響している。ポンピングロスとはエンジンが空気を吸い込むときに発生する抵抗のこと。アクセルオフであってもエンジンがまわっている限りは、バルブもピストンも動いている。注射器の口をふさいで、ブランジャーを手で引っ張る状態を想像してみればわかるように、アクセルオフで口の大部分を塞いだ状態というのは抵抗の塊になる。これがエンジンブレーキによる減速を生み出すのだ。 MT車でレブリミットを超えるほどの回転数になるようなギヤを選ばない限り、エンジンブレーキを使ったからといってエンジンが壊れることもないし、上手に利用すれば燃費には好影響となる。 さらにいえば、エンジンブレーキや回生ブレーキを積極的に使うべきシチュエーションもある。下り坂が長く続くような道では「エンジンブレーキ使用!」といった看板が出ていることもあるが、これはフットブレーキ(機械式ブレーキ)を使い過ぎると熱をもって利きが悪くなるのを防ぐための注意喚起だ。 こうした場合において、MTであれば2~3速の低いギヤを選び、ATではSやLといったレンジを選んで、エンジンブレーキを使うのはマナー違反ではない。むしろ、ブレーキランプを点けっぱなしで下っているクルマのほうが、周囲の精神衛生にはマイナスといえるかもしれない。 いずれにしても、安全のためにエンジンブレーキや回生ブレーキは積極的に活用すべきというのがリアルな運転ワールドといえるのではないだろうか。
山本晋也