なぜ浦和レッズの興梠慎三は8季連続2桁得点のJ1新記録を達成できたのか?
ネコ科の獣のように体がしなやかだからこそ、たとえるなら柳の枝のように、コンタクトプレーで屈強なディフェンダーが放つパワーを上手くいなす。近い距離でプレーする機会が多く、興梠の一挙手一投足をよく見てきた武藤が言う。 「体も強いので不利な体勢でもボールを収められるんですけど、相手ディフェンダーへ先に体をぶつけるプレーなども本当に上手い。ディフェンダーの懐にグッと入っていって、相手を自由にさせないところも含めて素晴らしいと思っているし、いつもチームを助けてくれている」 同じ1986年生まれのレッズの守護神、西川周作(33)は「敵にしたら一番嫌なタイプのフォワードですね」と、ゴールキーパーの視点から興梠の非凡さを解説してくれた。 「苦手とするプレーがない、と言っていいくらいに技術も優れていて、左足でも右足でも精度の高いシュートを蹴れるし、ヘディングで決めたかと思えば遊び心のあるループシュートも決める。性格的に非常にどっしりしていて、彼のぶれない姿は周りの選手から大きな信頼を得ますよね。けがにも強く、試合前に『痛い、痛い』と言っても必ずやり遂げる選手なので、この記録にもつながったのかな、と」 さらにつけ加えれば、誰とでもコンビネーションを組める柔軟さも兼ね備えている。レッズを率いる大槻毅監督(46)をして「観察眼や学ぶ力、あるいはしたたかさといったものも、彼がもっている素晴らしい才能」と言わしめる賜物と言っていいが、なぜか日本代表には縁がない。 同じ1986年生まれのFW岡崎慎司(マラガ)とともに、岡田ジャパンの2008年10月9日に行われた、UAE(アラブ首長国連邦)代表とのキリンチャレンジカップで代表デビュー。しかし、現時点で国際Aマッチ16試合に出場して無得点のまま、2015年9月のカンボジア代表とのロシアワールドカップ・アジア2次予選が最後の出場となっている。 理由のひとつに、興梠本人に日の丸への欲がないことがあげられる。リオデジャネイロ五輪のオーバーエイジも一時は断ったが、レッズのチームメイト、MF柏木陽介(31)の「こんなチャンスはない。一度きりの人生で、オリンピックに行かないのはもったいない」とのひと言がきっかけで翻意した。