発電+農業のはずなのに 不適切な太陽光発電相次ぐ 作物ない例も 福島の避難指示解除地区
東京電力福島第1原子力発電所事故で避難を強いられた福島県浜通り。農村地帯に立ち並ぶのが営農型太陽光発電のパネルだ。県内外の企業による設置が相次ぐ一方、パネル下の営農が適切に行われていない事例も多発。農水省は4月の省令改正で設置基準の厳格化にかじを切ったが、どこまで抑止できるかは未知数だ。 避難指示が2016年に解除された南相馬市小高区。除染が済み、復興が進む集落に近づくと、高さ3メートルを超す営農型パネルが次々に見えてくる。その下に植えられているのは、神棚に供えるサカキが多い。 21年度まで年間12件以下だった同市の営農型発電に伴う農地転用許可の申請数は22年度、一気に81件に急増した。福島復興再生特別措置法による税制優遇が背景にあったとみられる。優遇が終わった23年度は15件と落ち着いたが、地域の農家からは「パネル下のサカキに全く手入れがされていない」「そもそもサカキが植えられていない」などの声が続出。県や市で営農者を指導する事態が起きた。
投資家案件が問題に
営農型発電は、農家個人で取り組む場合に加えて、複数の法人が関わるケースもある。浜通りで問題になっているのは後者だ。中でも、パネル販売業者が地主と投資家を仲介し、投資家はパネルを設置するだけで、営農はパネル販売業者と協力関係にある業者などに任せっきりにしているケースでの問題発生が相次ぐ。 市町村の農業委員会は、申請時の書類に不備がなければ転用を許可せざるを得ない。南相馬市農業委員会会長、今野由喜さん(73)は「きちんと営農するとの約束で許可を出している。計画通りやってもらわないと困る」と話す。
省令改正でも抑止は未知数
営農型発電の不適切事例の排除へ、農水省は4月、これまで農村振興局長の通知で定めていた、農地を一時転用する際の許可要件を農地法施行規則(省令)に格上げした。申請時の要件も厳しくした。現場から従来より指導が強化できるとの声がある一方、効果を疑問視する意見もある。 改正省令では、転用許可の申請時にパネル下の農地の収支見込みを新たに提出するよう求める。毎年、栽培実績や収支報告書の提出を誓約する書面も要求する。これによって妥当な生産をしているかを確認できるようにする。 ただ、既に転用許可された業者に新たなルールが適用されるのは、最長10年ある現行の許可期間を終えて、更新を申請する時となる。今野さんは「税制優遇が終わり、パネル新設の動きはほとんどなくなった。省令改正の効果は限定的ではないか」とみる。(木寺弘和)
<ことば>営農型太陽光発電
農地に支柱を立てて太陽光発電パネルを設置し、農業と発電を両立する仕組み。地域循環型のエネルギーシステム構築の有力な選択肢の一つとして期待がかかる一方で、営農が適切に行われていない事例の解消が全国的な課題となっている。
日本農業新聞