中身が大胆に変化したポルシェ新型「911カレラ」の実力とは? 進化したフラット6と洗練された足回りでもっと“大人のスポーツカー”へ
フットワークは従来モデルよりもかなりソフトな味つけ
こんな具合に、実は多くの変更が加えられている新しい「911カレラ」。でも一番気になるのは、やはり走りですよね。そろそろ、スタートすることにしましょう。
試乗車は右ハンドル仕様。右側にあるプッシュボタンでエンジンをスタートさせると、すぐに室内が断然静かなことに気づきます。 高級セダンのように音がしないわけではなく、エンジン音や排気音は聞こえてくるものの、ボリュームはひかえめ。実は車外で聞いていても、かなり大人しくなっています。今後ひかえている厳しい騒音規制に対応させるための変更ですが、違いは想像以上かもしれません。 クルマを発進させてPEC東京のハンドリングトラックへ。アクセルをさらに踏み込むと、背後に積まれたフラットシックスはスムーズに回転を上昇させていきます。 ターボラグは全く感じさせず、一方でターボエンジンらしいトルクの厚みをもたらす、その魅力は変わらず。さすがに9psの出力アップは体感できませんが、それでも最高速度は1km/h増の294km/hに、0-100km/h加速は“スポーツクロノパッケージ”つきで0.1秒速い3.9秒に、それぞれ向上していることは付け加えておきます。 走らせるうちにわかってきたのは、サウンドは確かにひかえめとはいえ、そのせいなのか緻密な印象はむしろ増していて、8速PDKの変速もよりスムーズに感じられるということです。正直、最初は物足りなく思ったのですが、そのうち案外いいかもしれないと感じられるようになりました。大人のスポーツカーらしい洗練度を得た、とでもいえばいいでしょうか。 そして、実はこのエンジン音よりもむしろ大きな変化が見られたのがフットワークでした。端的にいって、従来よりだいぶソフトな味つけなのです。 走り出した瞬間から、乗り心地は明らかにしなやか。一方、これまでより明らかにロールが大きく感じられ、最初はとまどいました。 そこでドライビングモードを「SPORT」、もしくは「SPORT+」に入れると、“PASM(ポルシェ アクティブ サスペンション マネージメント)”がより引き締まった設定となり、シャキッとした感じが出てきますが、スプリングレートは変わらないため姿勢変化はやはり大きめ。アンダーステア傾向が強まる一方で、リアの落ち着き感はむしろ増したかもしれません。パイロンスラロームも試しましたが、やはり同様の印象でした。 ●刺激的なスポーツカーに施された“細かな性格分け” こんな具合で、エンジン音もハンドリングもタッチがマイルドになっていた新型「911カレラ」ですが、考えてみればその変化は十分納得できるものだと感じます。実は、先代“992.1”では遅れて登場した「911カレラT」が、新しい“992.2”ではMT専用モデルとしてさほどのタイムラグなく発表されているのです。 エンジン音を聞かせるべく内装材をあえて省き、シャシーもよりハンドリング重視とされて、同じエンジンでも明確に走りに振った仕様となる「カレラT」の存在を前提に、「カレラ」はあえて大胆に逆に振る。今回ポルシェはそうやって、それぞれのキャラクターを深化させてきたのです。 改めて私自身の使用環境を考えてみると、街中や高速道路での移動が中心で、自分のクルマでサーキットを走る機会はほぼ皆無。そう考えると、今回の「911カレラ」、実はすごくしっくり来るのでした。 ただし、それはあくまで「911カレラ」というモデルの中での振り幅。セダンのような安楽さを求めているわけではなく、刺激的なスポーツカーの中での、細かな性格分けだととらえていただけるといいと思います。 きっと同じような「911」を求めていた人、少なくないのでは? あまり変わっていないかと思わせて新型「911カレラ」、実は結構大胆に変化していると分かった今回の試乗でした。これは一般道でも早く試してみたいですね!
島下泰久