ブガッティ「EB110」が3億1000万円! 式場壮吉氏がファーストオーナーだった個体には関係者しか知り得ないエピソードが…AMWで初公開します!
日本人エンスーにとっては輝かしいヒストリーの持ち主だけど……
今回の「Monteley 2024」オークション開催の数カ月前に公開されたRMサザビーズ社の公式オークションWEBカタログでは、「式場氏は余生をS4とともに過ごし、東京で開催される日本ブガッティ・クラブの集まりにS4とともに出席し、2016年に亡くなるまでこのクルマを丹念にメンテナンスしていた」と記されている。でも実際には、2010年前後にさる外資系金融機関の元CEOであった日本人愛好家へと所有権が移行しており、各種のイベントに姿を見せるようになったのも、その2代目オーナーとともにであったように記憶している。 そして次なる所有者に譲渡されたあと、S4はオーストラリアへと輸出され、2019年にはヴィクトリア州ジーロングの「City Auto Group」社によって、すべてのボディパネルの取り外しとクリーニングを含む、大規模なディテールアップが施行された。 さらに、今回のオークション出品者である現オーナーは、2022年にクラッチとブレーキの整備を行ったほか、2024年2月には2万ドル以上の費用をかけて新しい燃料タンクに換装したことなどを記録した請求書を添付し、S4の細心な手入れを続けてきたことを明快に主張していた。 VWグループの傘下で復活を遂げ、「ヴェイロン」や「シロン」の時代となった今世紀初頭以降、一時は忘却の彼方へと去りつつあったアルティオーリ時代のEB110だが、2019年に「チェントディエチ(110)」が誕生したのを契機に、再び脚光を浴びるようになった。
競売では思ったはずほど入札が入らず……
とくにこのS4は、市販型EB110 SSのプロトタイプであったとともに、「最高速度351km/h」というSSのスペックを実際に裏づけた個体そのものという歴史的価値も兼ね備えているという主張のもと、RMサザビーズ側では240万ドル~280万ドル(約3億5079万円~4億937万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定していた。 ところが、2024年8月17日に行われた競売では期待されたほどにビッド(入札)が伸びず、最終的にはエスティメート下限を大きく割り込む215万ドル、つまり日本円に換算すれば約3億1000万円で競売人のハンマーが鳴らされることになったのだ。 ここ数年におけるEB110 SSのオークション落札実績を見返してみると、300万ドル前後あたりの推移が多かったのに対して、この個体にいくらかでも関りを持った者のひとりとしては少々残念ではあるが、今回の落札価格が少々低めであることは認めざるを得ない。 われわれ日本人のファンにとっては素晴らしいヒストリーを誇りつつも、それはオークション開催国であるアメリカをはじめとする海外のバイヤーにとっては、今なお価格を高騰させる理由にはなり得なかったということなのだろう。
武田公実(TAKEDA Hiromi)