ブガッティ「EB110」が3億1000万円! 式場壮吉氏がファーストオーナーだった個体には関係者しか知り得ないエピソードが…AMWで初公開します!
AMW独占公開、本社で「ル・マン・スペック」に進化した逸話
さてここから先は、ほかの媒体はもちろん、RMサザビーズの公式ウェブカタログにも記されていない、筆者が独自に知り得たストーリーについてお話しさせていただきたい。 ブガッティ・グループの極東ブランチであるブガッティ・ジャパンに1994年4月から勤務していた筆者は、このEB110 SSが本国で「S4」と呼ばれていたことについては、正直なところ周知していない。しかし、アンバサダーとしてかなりの頻度でわが社に入り浸り、まだ20歳代だった筆者にもしばしば貴重な薫陶を授けてくれた式場氏とともに、このEB110 SSに触れる機会も幾度かはあった。 今からちょうど30年前にあたるこの年のブガッティ・グループは、6月にイタリアで大々的に開催された「インターナショナル・ブガッティ・ラリー」と、ほぼ同じ時期に行われたル・マン24時間レースへの(事実上の)ワークス参戦に湧いていた。 ル・マンに出場したEB110 SS、のちに「EB110 LM」とも呼ばれることになった個体には、ブガッティ社内で「ル・マン・スペック」と呼ばれていた専用チューニングを投与。パワーは市販型よりも低い600psに抑えられていた反面、最大トルクは60.0kgmから75.0kgmまで増強されることになった。 その「ル・マン・スペック」に目をつけたのが、世界最高クラスのコニサーだった式場氏である。この時、彼のEB110「S4」は再びイタリアに送られ「インターナショナル・ブガッティ・ラリー」に欧陽菲菲夫人も伴って参加。その後は、モデナ近郊のカンポ・ガリアーノのブガッティ・アウトモービリ工場にて、当時のブガッティ社の有償保証(車両代金+1000万円)にしたがって最新スペックにアップデートされることになっていたのだが、そこで式場氏からル・マン・スペックへのモディファイを、追加事項として依頼されたのだ。 また、リアバンパーは放熱性を高めるためにまったく新しいスタイルに刷新されるなど、S4は生来の1993年仕様からこの時点における最新スペックにアップデートされて、3度目の日本上陸を果たすことになる。 蛇足ながら、筆者はEB110 GTならば複数の個体を運転する機会には恵まれたいっぽうで、正直にいえば110 SSでの運転経験は「ル・マン・スペック」に改変されて日本に帰還したこの個体を、成田空港の貨物倉庫からの引き取り時に少しだけ移動させた時のみだった。だから標準型110 SSとの比較はできないながらも、EB110全般で指摘された低速トルクの薄さはほとんど感じることなく、4基のターボのトルクの立ち上がりもスムーズ。非常に乗りやすかったという記憶が、今なお鮮明に残っている。