「残業削減」以上の収穫、名古屋市立日比津中の「働き方改善」の意外な効果 実際にやめた・減らした・変えた・充実させたこと
急がば回れ、教職員の参画やボトムアップが大切な理由
日比津中のように、教職員の参画と対話というプロセスはとても大切だ。忙しい学校からすれば、回り道で、面倒だと思われるかもしれない。だが、たまには腰を据えて、話し合って行動することを決めることが、結果的には近道になる。 そもそも働き方改革などの学校改善には、トップダウンとボトムアップの両方が大事だ。 文科省や教育委員会において、見直しの方針を示したり、各校のみで実施が難しいことを行ったりする、トップダウン的な施策は必要だ。例えば、部活動で休養日を設ける方針を定めて、各校が遵守するようウォッチしたり、書類や手続きを見直して事務処理負担を減らしたりするのは、設置者(各教育委員会)の役割だ。 だが、トップダウンだけでは限界がある。一般の方にはあまり知られていないかもしれないが、学校裁量(校長権限)の業務も多いからだ。学校行事や部活動の数をどうするかや、生活ノートなどの生徒指導の取り組みの多くは、文科省や教育委員会が細かな縛りはつけておらず、学校裁量である(いじめ対策などは別)。 通知表でどれくらいコメントを書くか、児童生徒の課題や作品にコメントを書くか(スタンプなどで済ませるか)、学級通信を出すかどうかなども、学校裁量もしくは個々の教員の判断だ。掃除は義務付けた法令などはないが、前述のとおり学校予算が少ないので、事実上せざるを得ない状況だ。 それにトップダウンばかりでは、教職員にとっては、やらされ感が募り、推進力が高まらない。何か学校で取り組むときには、自分も参画して決めたことだという実感があるかどうかで、先生たちのやる気は違ってくる。 掃除や生活ノート、部活動などの見直しで、考え方、教育観が違っていても、ある程度対話と議論を尽くしたうえでのことなのか、それとも単に校長からやれと言われて渋々やるのかでは、その後の展開は全然違ってくる。
「いい事例はないですか?」という少し残念な質問
私が研修・講演の際に、必ずと言ってよいほど聞かれるのが「いい事例はないですか?」という質問だ。校長などからもよく聞く。 もちろん、事例を知っていたほうが参考になるし、自分たちの中の抵抗感は下がるだろうとは思う。だが、体感では8割以上、こういう質問をする人は、自分で事例を探してから質問をしているわけではない。文部科学省も事例集を出しているのだが、読んだことはないという。 意地の悪い見方をすれば、「事例はないですか?」という先生たちには、2つの可能性がある。1つは、事例を探す手間もないと感じるほど忙しい。学校の大変さには共感するのだが、ネット社会なのだし、ものの10分、15分でも参考事例は探すことはできるだろう。その時間も惜しむほど、働き方改革や業務を見直すことに優先度を置いていない、ということではないか。 もう1つの可能性は、「効果的な事例がないから、自校で働き方改革が進まないのは、仕方がないことだ」と言い訳をしたい人たちだ。各校で各自10分でよいので事例を探してきて、もしくはアイデアをリストアップしたうえで持ち寄れば、それなりに改善案は出るのに、そのちょっとした手間をかけようとしないのだ。