社会に出たときに「学力」より重要なスキルとは 新渡戸稲造の教えから学ぶ「見つけ、行動し、周りを巻き込む」力
「学力」だけではなく「探究学習」に力を入れる学校が増えている。東京都中野区にある新渡戸文化中学校・高等学校はそのような学校の一つで、水曜日はすべて探究学習に授業を充てる力の入れようだ。 【写真】教えを受け継ぎ、活動する教え子たち その教育をリードする山藤旅聞(さんとう・りょぶん)副校長に話を聞いた。(横田アソシエイツ代表取締役/横田浩一)
中高一貫の進学校で不登校が多いという現実
山藤さんは大学卒業後、理科(生物)の教師として、公立高校の進路多様校に赴任した。学力に自信を持てていない生徒が多い中、テニス部の顧問として朝練や週末の練習試合など、休日返上の熱血指導を始めた。 最初はコミュニケーションをとることもなかなかむずかしかったが、しばらく続けていると生徒が変化してくることが実感でき、テニス部の練習に一心不乱に打ち込むことだけでなく、授業への取り組みや、進路への意識も変容していく生徒が増えていった。結果として難関大学に合格する生徒もでてきた。 進路多様校で生徒変容の手応えを感じた4年間の勤務後は、中高一貫のいわゆる進学校に転勤した。生徒は前任校と違ってとても学力が高い。知的好奇心も旺盛だ。 しかし学ぶ楽しさ、学ぶ意義が受験からはずれていない生徒が多いことに違和感を持ち続けていた。 前任校に比べて不登校の生徒が多いことも気になり始めた。理由は様々だが、小学生のころは学年トップの成績だった生徒が、この学校では1番を取ることは難しい。そのようなプレッシャーも一因と思われた。 優秀なのに自分らしく生きられない生徒に対し、教師として何かできないか、教師のあり方を問い続ける日々だった。
ブータンの生徒たちに心を打たれた
そのような時にブータンに視察に行った。まず感じたのは、ブータンでは「豊かになるために学ぶ」という明確な目的があり、終戦直後の日本のように学びに対してのモチベーションが高いことだった。 地域に学校が一つしかないので、学力も多様な生徒が多い中、どの生徒も意欲的に学ぶ姿勢に強く心を打たれた。 ブータンの生徒100人ほどに、なぜ勉強するのかを質問したところ、多くの生徒が「国のために学ぶ」と利他的な目的を挙げた。 そんな生徒たちに心を打たれ、日本に帰国後は「自分のために学ぶのではなく、未来のためや、誰かのために学ぶと答える生徒を育む」教育を目指すようになった。 生徒の利他的なマインドは、フィールドワークを重視し、教室と社会をつなぐ教育によって育まれるのではないか。フィールドを与えれば、輝くのではないか。 こう考えた山藤さんは、校外のNGOと提携して日本の生徒たちをボルネオに連れていった。学校内で自信をなくしていた生徒たちが目を輝かせて、学びに前向きに変容する姿がたくさん見られた。