逮捕より支援を...相次ぐ“医療的ケア児”放置 脳性麻痺の子を育てる当事者「明日は我が身」親の孤独や苦悩とは
■いま必要な支援は?
ヤマグチさんにとって、いま必要な支援は何か。まずは、手続きのたび息子連れで外出する必要があるため、「役所手続きの簡素化・非対面化」を求める。また、必要な医療機器への補助はあるが、一部は自己負担で、補助金が振り込まれるまで1年かかるなどラグがあることから、「補助金制度の拡大・改善」も求める。そして、本格的な医療的ケアが必要になってから、多数の保育園に入所を断られた経験から「ケア児受け入れ保育の拡充」も望んでいる。 介護や育児する人が一時的に休息できるようにする支援サービスとして、「レスパイトケア」と呼ばれるものが存在する。デイサービスや訪問看護などの在宅サービスや、ショートステイなどの施設サービス、病院が受け入れるレスパイト入院などがある。 ヤマグチさんは「在宅レスパイトが全国的に広がってほしい」と願う。「障害福祉サービスは医療とは違い、全員が使いたい時に使えるわけではない。自治体の許可が必要だが、許可を出す人は実情がわからない。私たちが書面で大変さを伝えても、『子どもの体調が悪ければ、親が看病するのが当たり前だ』『同居家族がいるならできるはず』などと返事が来る」。 とは言っても、「レスパイトケアの施設が足りず、息子も3~4カ所断られて、ようやく見つけた」といい、「施設に行くのではなく、家に看護師が来て長時間見てくれる在宅レスパイトをお願いしたい。ただ、許可を出す自治体窓口は、私たちの説明をクレーム扱いすることもある。デジタル技術などで、ケアの量を数値化して、客観的な評価でケアが行き届くようになってほしい」と願う。
■現場の課題「医療的ケアを担える看護師の育成だ」
2021年9月に施行された医療的ケア児支援法は、「医療的ケア児の健やかな成長を図る家族の離職を防止すること」を目的としている。国・地方公共団体などの責務を明らかにし、保育所、学校等に対する支援や、家族の日常生活における支援を行うほか、医療的ケア児支援センターの設置や、地域ごとの医療ケア児支援体制の整備などが盛り込まれている。 医療的ケア児支援センターは、医療的ケア児や家族からの相談に助言するほか、関係機関(医療・教育・福祉など)に情報提供・研修などを行う。そして関係機関は、医療的ケア児・家族に対して支援を提供する。センターの役割は、家族からの相談を受け、ケアが必要な場合には、ケアができる場所を地域などの自治体を超えて紹介することにある。 佐賀県医療的ケア児支援センター長の荒牧順子氏は、「医療的ケア児を受け入れる福祉事務所などは増えている」と説明する。しかしながら、「国も動いてはいるが、人工呼吸器など重度な医療的ケアの方々が利用できる資源が足りない。事務所を立ち上げるにも、看護師の確保や育成、人件費が問題になる。国の報酬で安定的に運営できるかというと難しい部分もある」そうだ。 なかでも現場の課題として感じているのが、「医療的ケアを担える看護師の育成だ」といい、「誰がかじ取りをするのか。国や都道府県といった行政が、しっかり人材育成に取り組んでいくことが非常に重要だ」と述べた。 衆院議員の大空幸星氏は、こども家庭庁が支援事業を行っていると説明しつつ、「ガイドラインのある自治体と、ない自治体で、ばらつきが出てしまう。レスパイトの受け入れが充実している地域に引っ越す人もいるが、それが自治体間の競争に使われてしまうのは倫理的にどうなのか。自治体間のギャップを埋めるのも課題だ」と語る。 これに荒牧氏は同調しつつ、「都道府県同士や、同じ県内の格差のデータを作れていないのが課題だ」と指摘する。「佐賀県では、各市町村に各分野の職員を集めて、『格差が本当にあるのか』『ショートステイの受け入れは足りているか』などのデータ化に取り組んでいる。佐賀県でまず行っているが、他の都道府県でも取り組める。国でも是非やってほしい」とした。 (『ABEMA Prime』より)
ABEMA TIMES編集部