シリコンバレーでいま話題の「創業者モード」とは何か…”プロの詐欺師”が蔓延る「マネージャー・モード」との決定的な違い
「創業者モード」とは何か
ドロップボックスやエアビーアンドビーなど数々の有力スタートアップを育成したことで知られる、米シリコンバレーの起業支援団体Yコンビネーター。その共同創業者ポール・グレアム氏が今月、自身のブログで発表した「創業者モード(Founder Mode)」という論考が今、経営者の間で話題となっている。 【画像】「ペイペイの毒」に潰されたキャッシュレス企業…その残酷すぎる末路 これは元々エアビーアンドビー創業者兼CEO、ブライアン・チェスキー氏の講演からヒントを得たという。この講演で同氏は「大企業の経営に関する、これまでの常識は間違っている」と指摘した。 これまで「創業者は自分の会社が大きくなっていく過程で組織を階層化し、管理職となる良い人材を適宜雇って、彼らに権限を委譲して仕事を任せるべき」と考えられてきた。 チェスキー氏も周囲からそうしたアドバイスをもらい、それに従って部下達への権限移譲を実行したが、それは悲惨な結果に終わった。つまり組織の官僚化や部署間での権限争いなどが蔓延り、肝心の会社業務やプロジェクトがいっこうに捗らなくなった、というのである。
スティーブ・ジョブズ氏の経営にヒント
これに懲りたチェスキー氏はエアビーアンドビーの組織再編を断行した。その過程で故スティーブ・ジョブズ氏によるアップルの経営手法を研究し、たとえ会社が大きくなった後でも、それをあたかもスタートアップのように経営する方法を学んで実践した。これによって会社は再び息を吹き返し、停滞していた事業も再び軌道に乗ったという。 このときの聴衆の中には起業家として成功を収めた人たちも少なくなかった。彼らはチェスキー氏の講演を聞いて異口同音に「自分たちにも同じ事が起きた」と述べた。つまり自ら創業した会社が成長する中で周囲から同じようなアドバイスを貰ったが、それはむしろ会社を駄目にする助言であったという。 周囲の人たちは、なぜ創業者に間違ったアドバイスを与えるのか？ これについて熟考したグレアム氏は、「助言者は自分ではなく他人が設立した会社を経営する方法を(創業者に)教えていたのだ。なぜなら彼らは自分で起業したことがないからだ」と思い至った。 これらの人たちが教えてくれるのは、プロのマネージャーとして会社を経営する方法だが、グレアム氏はこれを「マネージャー・モード」と呼ぶ。この方式では経営者は優秀な中間管理職を企業の各部門に配置して、彼らに権限を委譲する。各部門は言わばブラックボックス化されており、経営者は各部門の仕事に関与しない。ただプロジェクトの進捗状況や成果について管理職の報告を受けるだけである。 しかし、この方式では上司への報告ばかり上手な「プロの詐欺師(professional fakers:プロの管理職を揶揄した表現)」が蔓延り、肝心の業務やプロジェクトが一向に捗らない。チェスキー氏が周囲のアドバイスに従った結果、一時は会社の経営が行き詰った理由がまさにそれであるという。
