村井理子 認知症の義母がヘルパーさんとの浮気を疑い、義父の額にリモコンを振り下ろした。そして最も避けたかった「義父母の介護」を決めた理由
厚生労働省の「令和4年度 国民生活基礎調査」によると、同居している家族が介護を行う割合は全体の45.9%で、そのうち<子の配偶者>は5.4%だそう。そのようななか、翻訳家・エッセイストとして活躍する村井理子さんは、仕事と家事を抱えながら、認知症の義母と90歳の義父の介護を続けています。そこで今回は、村井さんの著書『義父母の介護』から一部引用、再編集してお届けします。 【書影】それって妻の義務ですか!?本音150%の介護奮闘記!村井理子『義父母の介護』 * * * * * * * ◆「お父さんが浮気をしている」 とある日の夜中、就寝中の義父の額に義母が電化製品のリモコンを無慈悲に振り下ろした。 義母がヘルパーさんとの浮気を疑ったのが原因だった。 最初にそれを義父の口から聞いた時は、不謹慎とは思いつつも、「愛されてますねえ」などと軽口を叩いてしまった。気の強かった義母らしい行動パターンを聞いて愉快な気持ちになったのだが、就寝中を襲われたと聞いた以上、笑っている場合ではない。 「それは深刻ですね」と、報告を受けたケアマネは心配そうに言った。かかりつけ医に何が起きたかを話し、指示を仰いだほうがいいとのアドバイスを受けた私は、すぐに予約を取りつけた。そして数日後、私、夫、義父、義母というフルメンバーで、病院まで向かったのである。
◆診察の結果 「うそばかり!」と義母は顔を真っ赤にして怒って否定した。認知症専門病院の待合室で、義父はリモコンで叩かれて赤く腫れた額を指さして、「覚えてないんか?」と義母を問いただしていた。 義母は、私の目から見れば一切覚えがないようで、「そんなこと私がするわけないじゃないの」と困惑しきっていた。 少し涙ぐんでいたかもしれない。そんなことを疑われるなんて、あまりにも酷い……義母の表情はそう言いたげだった。 待合室には大勢の患者がいて、中には大声を出して暴れている人もいた。義母は周囲を見渡して不安そうな顔をし、「早く帰りたい」と訴えた。 「ご家族の方お願いします」と看護師さんに声をかけられた。義父も夫も、「頼む」という顔をして私を見た。このメンバーで最も口が達者なのが私なので仕方がない。 早足で診察室に入ると、義母の主治医にリモコン事件の詳細を伝えた。 義父が退院し、家に多くの介護関係者が出入りするようになってからというもの、義母は私に「お父さんが浮気をしているかもしれない」と何度も訴えるようになっていた。 そのうえ、「女の足が見える。寝室から急いで逃げて行く」とか、「庭の玉砂利の上を誰かが歩きまわっている」とか、「夜中にラジオの声が聞こえてきて、眠ることが出来ない」「誰かが冷蔵庫を開けている」など、様々な話をしていたのだ。 そのすべてを洗いざらい医師に伝えた。医師はいくつかの可能性を提示しながら、幻聴や幻視が多いことを踏まえて、「レビー小体型認知症の可能性があるかもしれませんね」と言った。 私は自宅に戻ると、夫と一緒にレビー小体型認知症について調べた。インターネットで調べる限りは、義母の症状にぴたりと合う。「これかもしれないね」と、私は夫に言った。
【関連記事】
- 村井理子 脳梗塞で義父が倒れた後、しっかり者の義母が意気消沈。20年バトルを繰り広げてきた彼女の弱った姿が信じられなくて
- 実母と姑、舅を同じ家で介護し、49歳で逝った母。「介護が終わる日は亡くなる日、嫌だと思ってはいけない」という母の言葉に、私はまだ縛られている【2023年間BEST】
- 「仕事帰りのスーツ着た男が、トイレットペーパーなんて、買えるかっ!」と言った夫が定年を迎えた。家事を手伝ってくれるようになり、言われたことは…
- 独身女性、老後の家問題。92歳の父、89歳の母との3人暮らし。持ち家があって正社員、自分は難病で週3の透析、老後は大丈夫?
- 100人以上の死を見守った猫の不思議な力とは。介護施設で活躍する「セラピーキャット」の存在