下から見たムツゴロウ（東よか水辺の生き物マルチメディア図鑑より）

　ラムサール条約に登録されている佐賀市東与賀町の湿地「東よか干潟」や周辺の水田・水路に生息する貴重な生き物を知ってもらおうと、九州大と公益財団法人「世界自然保護基金（WWF）ジャパン」が、3Dや動画で紹介するサイト「東よか水辺の生き物マルチメディア図鑑」を公開した。教育現場や家庭などでの活用を通じ、地域の人たちに身近な生物多様性に関心を持ってもらうのが狙い。 【写真】この10年で激減したというドジョウ 　図鑑で紹介しているのは、シオマネキなど干潟の生き物17種のほか、カワバタモロコなど水田・水路に生息する魚類や両生類など35種の計52種。好きな角度を映す3Dや水中の動画などで観察できる。 　WWFのリポートによると、世界の生物多様性の豊かさを示す指標は過去50年間で73％減少し、中でも淡水生態系の生き物の減少は85％にも上るという。 　東よか干潟には、ヤベガワモチなどの貴重な生物がおり、干拓地に張り巡らされたクリークにも多様な淡水生物が生息する。生体の3D化に関わった九州大の鹿野雄一特任准教授（生態学）は「有明海周辺は琵琶湖流域と並んで、国内で最も生物多様性がある場所」と指摘する。 　一方、水路のコンクリート化などの開発、農薬使用、外来生物との競合など状況は厳しく、カワバタモロコやニッポンバラタナゴは、この10年でほぼ見られなくなったという。鹿野特任准教授は「体感的には10年で10分の1、50年で100分の1くらいのレベルで減っているのではないか」と危機感を示す。 　九州大とWWFジャパンは2021年から、東与賀で自然環境に配慮した農業の共同研究プロジェクトに取り組んできた。WWFジャパン自然保護室淡水グループの久保優さんは「貴重な生き物は地域の財産。気付き、誇りに思ってもらうことが保全の第一歩になる」と図解に期待を寄せる。 　（井中恵仁）