【菊花賞】アーバンシックがクラシック最後の栄冠を手にする! 混戦に終止符を打つ “自分のリズム”
第85回菊花賞回顧
まるで、今年の3歳牡馬戦線を表しているようだ――菊花賞のレースを見ながら、そんなことを思った。 【ガチ予想】 クラシック最終戦『菊花賞』をガチ予想!キャプテン渡辺の自腹で目指せ100万円!冨田有紀&三嶋まりえ 皐月賞もダービーも戦前には「混戦」という表現が使われた今年の3歳牡馬戦線。 レース前には確たる主役がおらず、レースが終わればその勝ち馬が次のレースでも人気になるが、結果的に期待に応えられず、また新たな王者が生まれるという流れを繰り返してきたが、今回の菊花賞もそれは変わらなかった。 ダービー馬ダノンデサイルが単勝2.9倍の支持を集めたが、単勝オッズ10倍を切る馬が5頭もいるなど、例のごとく混沌としていた菊花賞。 そのダノンデサイルもダービー以来の実戦ということもあり、馬体重はダービー時から+18キロとなる522キロ。馬体重が発表された際、ファンからはどよめきが起こるほどだった。 ひと夏を越えて馬体が成長したのは確かだが、パドックに現れたダノンデサイルはやはり馬体が少々立派すぎた。そしてこれを負かそうという馬たちもどこか物足りなく映ったのか、ダノンデサイルの人気は変わらない。 そんな中、2番人気に推されていたアーバンシックはというと、実に穏やかに周回していた。これまでと比べるとやや気合い乗りが足りないのでは?と思わせるほどの穏やかな歩みは異様にも映るほど。 だが、アーバンシックはこの時、静かに闘志を燃やしていたのかもしれない。春のリベンジを果たすために。 上がり最速の時計を記録しながら届かなかった皐月賞、東京に舞台が替わることで末脚爆発が期待されたものの伸びずに大敗を喫したダービーと持ち味を生かし切れなかったが、セントライト記念で初めてタッグを組んだクリストフ・ルメールは「絶対に能力がある馬」とそのポテンシャルを認めていた。 だからこそ、ルメールは信じていたのかもしれない。「自分の走りができれば、勝てる」と。 ゲートが開いた瞬間、外枠からエコロヴァルツが果敢に先頭に立っていき、逃げると目されていたメイショウタバルが控えるという意外な形でスタンド前に入ったが、ファンの大歓声を受けると、メイショウタバルが上がって一気に先頭に。この時に1000mを通過した馬群の通過タイムは1分2秒0。かなりのスローペースとなった。 馬の気に任せて上がっていったメイショウタバルから今度はピースワンデュックがハナを奪いに行って、それにノーブルスカイ、シュバルツクーゲル、ミスタージーディーらが絡んでいくという具合に入れ替わり立ち替わりで先頭に立つ馬が替わっていくという忙しい展開に。 この流れに対応できなくなったのか、スタート直後は3~4番手に付けていたダノンデサイルは後方へと下がってしまった。 この時、ルメールとアーバンシックはと言うと6~7番手の位置に。スタンド前を走っているときは後ろから数えた方が早いくらいのポジションにいたが、向こう正面の真ん中ごろに差し掛かるころから仕掛け始め、一気に先頭を捕まえられるだけの位置に。 そのポジショニングはこれだけ忙しい展開の中にあって実にスムーズなもの。流れに逆らわず、無理なく動いて押し上げていく。 そんなアーバンシックのリズムに乗った走りは最後の直線で輝くことになる。 4コーナーを回り、迎えた最後の直線。スタミナには定評のあった上がり馬、アドマイヤテラが名手・武豊の手綱に導かれるように先頭に立つと、その外からアーバンシックが襲い掛かった。 ルメールの鞭が一発、また一発と入るたびにストライドを広げるアーバンシックは並ぶ間もなくアドマイヤテラを捕まえて先頭に立った。 残り200mを過ぎたばかりの地点で先頭に立ったことで他馬から目標にされることは間違いなく、ここから差される可能性も十分にあったが、ルメールとアーバンシックの走りに迷いはなかった。 残り100m過ぎ。ゴールに向けてひた走るアーバンシックを目がけて各馬が追いかけてくるが、どの馬も脚が上がり、もうひと伸びがない。 残り200mの時点で先頭を譲ったアドマイヤテラが懸命に食い下がっているところに内からショウナンラプンタ、外からはヘデントールが猛追してくるが、先頭のアーバンシックはそのはるか前を走り、そのままゴール。 2着に入ったヘデントールには2馬身半という今年のクラシック三冠レースの中で最も大きな差をつけ、アーバンシックは最後の一冠をもぎ取ってみせた。 それは今年の3歳牡馬戦線の混迷ぶりにピリオドを打つものだったと言えるだろう。 「だんだんペースアップした時は『勝てる』と思った」と、ルメールはインタビューでこう振り返ったが、「この馬の走り方を変えず、自分のリズムを守ることに徹した」というように「1番強いのはアーバンシックだ」と、戦前から愛馬のポテンシャルを信じていたことがうかがえる。そして最後にルメールはこう語ってインタビューを締めくくった。 「秋から大人になったし、パワーアップしてきた。またGIでもいい結果を出せると思う」 思えばルメールを背にして菊花賞を制した馬と言えば、サトノダイヤモンド、フィエールマン、ドゥレッツァと3頭いるが、サトノダイヤモンド、フィエールマンは菊花賞後にもGIを制し、ドゥレッツァは海外へ遠征し世界の強豪相手に奮闘している。 … そんな偉大な先輩たちの蹄跡を見ればみるほど、アーバンシックの今後が楽しみだ。 ■文/福嶌弘
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