芸能や演芸は役に立たないと言われても、「笑いはやっぱり必要」――福島出身の落語家・三遊亭兼好と席亭の11年 #知り続ける
兼好師匠は、震災前の2010年から会津若松市に隣接する会津坂下町(あいづばんげまち)で「農・笑・交プロジェクト」に取り組んできた。もとは農作業で疲れた町内の農家の人たちに兼好師匠の落語で大いに笑ってもらおうという企画だったが、原発事故が起きた後には目的が変わった。 風評被害に苦しむ農家への激励と、その払拭を目指すことへと変化したのだ。 こうして兼好師匠は年4回、地元の農家の人たちと一緒に田植えや稲刈りに汗を流しながら、会津坂下町で収穫したコメを、都内で開催される独演会で販売し、プロジェクトの運営費に充ててきた。 しかし、そこにコロナ禍が立ちはだかる。 それでも、兼好師匠は2021年の稲刈り寄席にはしゃれで対抗した。 「カカシとして、登場させていただきました(笑)。地元のみなさんには本当に申し訳ないと思いながら。この10年間、福島で農業に携わる方々と一緒に寄席をやってきて、農家の方々はなんだかんだ陽気だということを実感しました。自然を相手にしている人たちはすごく陽気で、しゃべらせりゃ私より面白い(笑)」
会津若松市、会津坂下町ばかりではない。 福島市、郡山市、南会津町、南相馬市、大玉村など、福島のいろいろなまちで兼好師匠は高座に上がってきた。 「天気予報を見たことがある方はご存じでしょうが、福島は『浜通り』『中通り』『会津』と三つの地域に分かれていて、気質も違います。浜通りは漁業の方も多いですし、あとブラスバンドが有名。中通りは福島、郡山と東北新幹線沿いの中心地ですが、福島競馬もあるし、ギャンブラーが多いですねえ。それに中通りは合唱が強いので有名です。そしてわが故郷会津ですが、会津の人間は我慢強いと言われております。ただ、いつも思うのはテレビドラマで戊辰戦争が舞台になるじゃないですか。一回くらい、会津が勝たないかと思うんですよ。なかなかそうはならないんですが(笑)」 それぞれの地域の色合いは違うが、それでも福島で高座に上がるのは「ホーム」感が強いという。 「そりゃもう、福島はやっぱりホームですよ。まず、よそのところでしゃべり始めると、誰々の弟子で、どんなことをやってきた人間ですというようなことを最初の5分くらいでしなきゃいけない。そこへいくと、地元の場合は『会津で生まれてましてね』ってぐらいなもんで、みんなもう味方(笑)。私からすれば、甘えさせてもらってます。だから、他の県ではやらないような話もやっちゃおうかなと思ったりします」