芸能や演芸は役に立たないと言われても、「笑いはやっぱり必要」――福島出身の落語家・三遊亭兼好と席亭の11年 #知り続ける
11年目、福島のこれから
現在も休席する寄席の再開を熱望するお客さんは多い。そのためにも立花さんはもう一度、兼好師匠にお店の中の高座に上がってほしいと思っている。 「震災のあと、芸能や演芸は役に立たないんじゃないか、というような意見もありましたよね。たしかに、生きていくのに使わなくてもいいお金だから。でも、やっぱり笑いは必要だと思います。面白い。楽しい。笑いに接すれば気持ちも昂揚するし、頑張れます。それにひとりで聞くより、みんなで楽しんだほうが幸せじゃないですか」 立花さんは、人間はどんなことがあっても、動き、つながりを求める生きものだと感じているという。
東日本大震災のあと、店の経営が立ち行くかどうか、本当は心配だった。ところが、半年もすると、お客さんが戻ってきた。そしてコロナ禍に見舞われ、緊急事態宣言、まん延防止措置が延々と繰り返されるなかで、その間隙を縫って、立花さんのお店を訪ねる人もまた、多くいた。 人間は食べ、飲み、笑い、そして話す生きものなのだ。 福島でもそれは変わらない。 もめん亭の常連さんたちも、いまや遅しと再開を待っている。 「寄席、もうちょっと続けられたらいいなと思ってます。今度は、いつ始められるかしら……」 笑顔が、福島に帰ってくる日まで。
三遊亭兼好 1970年、福島県会津若松市生まれ。落語家。五代目円楽一門会所属。大学卒業後、紙卸問屋、タウン誌記者、魚河岸の軽子(魚を運搬する人)を経て、1998年8月、三遊亭好楽に入門。2008年9月、真打ち昇進。娘さんが代理でアップするTwitterの直筆絵日記が人気。 --- 生島淳 1967年、宮城県気仙沼市生まれ。ノンフィクションライター。早稲田大学社会科学部卒業後、博報堂に入社。1999年に独立。メジャーリーグ、NBAなどのアメリカンスポーツ、野球、ラグビー、水泳、陸上、古典芸能などを取材範囲とする。NHK、TBSラジオなどに出演。著書に『気仙沼に消えた姉を追って』(文藝春秋)がある。