すでに住職のいない寺が2割超……「葬式仏教」が生き残りをかけて編み出している「挽回の一手」
僧侶はワーキングプア
今後さらに、後継者不足が深刻化し、空き寺の数はうなぎ上りに増えると鵜飼氏が続ける。 「浄土真宗本願寺派は'21年の宗勢調査によると、『後継者が決まっている』と回答した割合が44%にとどまり、後継者の定まらない寺が過半数です。後継者がいる割合は浄土宗で52%、日蓮宗では55%にとどまり、その他の宗派も同水準と考えられます。 山での修行を重視する『山岳仏教』の真言系や天台系の宗派は、もともと山間部に立地する寺院が多い。将来的に大きく人口を減らす地域に多くの寺を抱えるそれらの宗派は、分派同士で企業のM&Aのように吸収・合併していかざるを得ないかもしれません」 実は僧侶は、年収300万円に満たないワーキングプアが大半である。 京都や奈良にあるような有名寺院以外に、一般の人々が大金を落とすことはほとんどない。わずか10~20軒しか檀家を持っていない寺も多く、その檀家にしても年金生活者ばかりで、十分なお布施は期待できない。 年収300万円もあればよいというのが実態で、サラリーマンや教師との「兼業住職」が多いのだ。前出の佐々木氏が語る。 「もはや大半が“サラリーマン住職”ですが、葬儀屋さんの下請けのような仕事をしている方もおられます。葬儀屋さんから連絡が来たらお経をあげに出かけ、そのぶんの賃金をもらって帰るという、一種のアルバイトですね。 兼業をしても収入が追いつかず、本堂のリフォーム資金すら確保できずに荒れ放題になっているお寺も多い。本堂を使用するのは危険だからと、住職の住居のほうに檀家さんに来てもらって法事を執り行うところさえあります」 人々の死を弔う以前に、葬式仏教自体がなくなってはシャレにもならない。全国各地では生き残りをかけて、様々な「大作戦」が始まっている。
築地本願寺の「合同墓」
浄土真宗本願寺派の築地本願寺は'17年、新たな「顧客創造」のために、大規模な合同墓を建てた。宗派は問わず30万円から入ることができ、「次世代に迷惑をかけたくないから」と予約が殺到。誰もが気軽に訪れられる“墓のマンション”のようなものだという。 一方で、こんな批判の声も挙がる。 「多死社会では巨大納骨堂や巨大合葬墓が次々とつくられ、『墓じまい』が加速していくでしょう。しかし多くの遺骨を大寺院で取っていったら、その周囲のお寺の取り分がなく滅んでしまう。自分たちの利益ばかり考えて、遺骨の奪い合いをしている場合ではありません」(都内の浄土真宗の住職) 遺骨ではなく、仏教に興味のない人々を寺に呼び込むための事例として佐々木氏が挙げるのは、法事以外で仏教の教えを説くイベントの開催だ。法話会や禅宗の坐禅会で寺に関心を持ってもらおうという試みである。 「一方で、仏教とは全く関係のないアイドルフェスやジャズコンサートなどを開く寺もあります。それらは1回きりで終わりますから、仏教を広めたり、信者を獲得することにはなかなかつながりません」 そうだ、一般人を呼ぶだけでなく、実際に僧侶になってもらおう! 臨済宗にそんな取り組みがあると言うのは、前出の鵜飼氏だ。 「週刊現代」2024年10月26日・11月2日合併号より 後編記事『定年後の出家を支援、ホテルと同居、介護施設を運営……ジリ貧の「葬式仏教」寺院が取り組む「最先端ビジネス」』へ続く
週刊現代(講談社・月曜・金曜発売)