中国の経済指標が示す“気になる兆候”
中国当局の引き締め策転換に注意
他方、やや長い目で見た場合、「景気回復は十分、今後は過熱に注意」との判断から政策当局が経済政策を引き締め方向へ傾ける可能性には注意したいところです。その要因として注意が必要なのは不動産市場の過熱です。たとえば、4月の不動産関連の固定資産投資は前年比+21.2%(2019年比+17.6%)と大幅に伸びた状態にあり、不動産販売面積は前年比+48.1%(2019年比+19.5%)と著しい増加基調にあります。こうした不動産市場の盛り上がりは、他のセクターに比べ過熱感が目立ちます。政策当局は不動産市場に資金が偏在する構図を心地よく思わないでしょう。
クレジット・インパルスが急低下
そうした当局の意向を反映してか、既に中国のクレジット・インパルスと呼ばれる指標は急低下しています。これは中国の銀行貸し出しが(経済全体の勢いに比べて)鈍化傾向にあることを意味していますから、端的に言えば、おカネの膨張度合いが低下しているということです。この指標は中国当局の政策態度を示すことが知られています。というのも、中国の政策当局は、不動産市場への資金流入が行き過ぎるなど経済全体に過剰投資の兆候が認められる局面では、規制を強化するなどして景気をコントロールするからです。 中国のクレジット・インパルスは、中国のみならず世界経済に相応のインパクトを与えているように思えます。なぜなら、世界的な景気減速(および株価の下落)に発展した2015年の中国ショックは、この指標がボトム圏にある状態で発生したからです。また2018年後半に観察された世界的な景気減速と金融市場の混乱も、同様にこの指標がボトム圏の時に起きていました。 中国の政策態度が世界経済を左右すると言っては大袈裟に聞こえますが、こうした経緯を踏まえると、このままクレジット・インパルスが下向きのカーブを描いた場合、年後半は米国のテーパリング(量的緩和の段階的縮小)と相まって、金融市場のストレスが強まる可能性があるでしょう。2021年は、中国と米国の政策態度が2020年対比で景気刺激的でなくなり、それは回復途上にある日本経済に逆風となりかねません。また、そうした政策態度の変化を察知した世界的な株価下落にも注意が必要でしょう。
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