泊まって、食べて、買っての「商店街ホテル」 町屋をリノベーションした工務店代表の戦略 一聞百見
ただ、実際の工事は「想像以上に大変だった」。今後100年使い続けられるように構造補強や断熱工事にこだわったこともあり、工期は大幅に遅れた。全国各地の知り合いの工務店に協力要請すると、名古屋や新潟など遠方からも大勢の職人が応援に駆けつけてくれた。「本当にうれしかった」と振り返る。
7棟は、大工の力を結集し、できる限り町屋の魅力的な建材を生かしてリノベーションした。町屋の雰囲気と合う北欧家具も備えるなど内装も充実。平成30年に「ホテル講大津百町」としてオープンした。
デザイン性が高く評価され、この年、公益財団法人日本デザイン振興会のグッドデザイン賞も受賞した。
ホテルの点在する大津ナカマチ商店街には、嘉永3(1850)年創業の漬物店や、東京で行列ができる人気店「ぼんご」で修行した弟子が営むおにぎり店など、個性あふれるユニークな店がひしめく。
ホテルの宿泊客は、そんな店を紹介してもらい、実際に訪れて食べたり持ち帰って味わったりすることが可能。ホテル2階の窓からは、ゆったりと時間の流れる商店街の風景を眼下に眺めることもできる。
「商店街で買い物をし、食べて、泊まってもらう。そして宿泊料の一部も大津の街に還元する。ホテルに泊まることで、街が元気になるという企画です」と狙いを語る。
予約件数はオープン翌年の令和元年と比較すると、6年は1・4倍に達する見通し。最近ではインバウンド(訪日外国人観光客)の増加を背景に、日本らしい商店街の魅力に触れたいという外国人の利用者も増えているという。
将来的には、現金がなくても商店街で購入した商品を、後でホテルで一括精算できるようなシステムの構築も検討している。
地域の立役者としての棟梁(とうりょう)を現代に復活させようと取り組むなど、これまで数々の挑戦を続けてきた。それは「買い手よし、売り手よし、世間よし」という近江商人の活動理念にもつながる。
「谷口工務店の取り組みも、最終的には社会貢献につながればいいですね」(土塚英樹)
■谷口弘和(たにぐち・ひろかず) 昭和47年、滋賀県竜王町生まれ。父親は大工。県立彦根工業高校(彦根市)で建築を学び、平成2年、大手ハウスメーカーに就職した。6年、ハウスメーカーの下請け大工に。14年ハウスメーカーを退職、元請け業として新たに谷口工務店を開業し、木の家専門店谷口工務店として法人化。30年には大津市内の商店街をコンテンツ化し、「街に泊まって、食べて、飲んで、買って」をコンセプトにした「ホテル講大津百町」を開業させた。