泊まって、食べて、買っての「商店街ホテル」 町屋をリノベーションした工務店代表の戦略 一聞百見
地道な努力が次第に認められ、「谷口さんに(家づくりを)お任せしたい」と、2千万円の札束を入れた紙袋を持参してきた老夫婦もいた。
顧客の開拓だけでなく、社員を大工のプロ集団として育成する社員大工制を採用するなど、人材育成にも注力。23年には「木の家専門店谷口工務店」として法人化させた。
施工エリアは滋賀を中心に、京都や大阪、兵庫、奈良、三重を含む関西エリアに拡大。従業員数は106人(パート社員含む)、施工実績は新築529棟、リフォーム407棟(いずれも昨年7月1日現在)に達している。
そんな会社の成長を支えてきた精神を「家道(やどう)」と表現する。「古くから日本の文化に根付く禅の思想をもとにつくり出した言葉で、お客さまと私たちが共に〝幸せ〟になれる家づくり」と説明し、こう言い切る。
「家道の考え方を世の中に広め、日本の家づくりを変えていきたい」
■買って泊まって魅力触れる
平成28年、滋賀県竜王町に本社を構える谷口工務店の支店ともなるショールーム「大津百町スタジオ」を大津市に開設した。なぜ大津市なのか。
「滋賀から日本一を目指す時、支店がいると考えて県庁所在地に目を付けた。早速、大津の街を歩き回ってみました」
かつては東海道五十三次の宿場町「大津百町」としてにぎわいをみせた大津市。それが現代、歩いてみると商店街は空き店舗が目立ち、人もまばら…。そんな現実に愕然(がくぜん)とした。
「建築を通して何か貢献できないか…」。模索する中、JR大津駅前に築100年超の古い町屋をみつけた。古くは商人が素泊まりした簡易宿「木賃宿」で、その後、和菓子屋として使われていたこの建物の改修を計画。一流の建築家や造園業者の協力を得て、「大工の仕事の魅力を最大に引き出す」ショールームを完成させた。
そして次に、いよいよ大津市中心部を走る大津ナカマチ商店街一帯を舞台にした〝商店街ホテル〟構想に乗り出した。
アーケード商店街と平行して走る旧東海道沿いに、全棟スイートの一棟貸しタイプ5棟と、大きな町屋の部屋をリノベーションして客室にしたホテルタイプ2棟の計7棟を展開。商店街をホテルの通路、商店街の飲食店などをホテルのレストランとみなし、宿泊客が自由に街に繰り出して回遊。買い物や飲食を自由に楽しんでもらおうというユニークな取り組みだ。