稲垣吾郎「<新しい地図>を結成して7年、僕自身のあり方は変わらない。日常では70%がちょうどいい、ゆるさが心と体の健やかさに繋がっている」
◆思い悩んでいても人には言わないタイプです ベートーヴェンは、暴力的な父親との関係や自身の病気など多くの苦悩を抱えていました。大変な人生だったと思いますが、一方で彼の音楽はその苦悩がなかったら生まれなかったとも言えます。 もちろん彼自身は苦悩を糧に作品を作ったわけではなく、厳しい環境の中で作品が生まれてしまった、ということなんでしょうけどね。僕自身はできるだけ苦しみを回避したい性格なので、いくら後世に名が残るとしても、そういう人生は遠慮したいです。(笑) また、耳が聞こえなくなった彼は、絶望のあまり一度は死を考えたと言われています。そしてそこから再び立ち上がる原動力になったのは、やはり音楽でした。幸か不幸か、僕はそこまで思い悩むタイプではないので、彼のようにドラマチックなエピソードは持っていません。 もちろん、この歳になるまでには、それなりにいろいろありました。なかでも42~43歳の時に自分の周りの環境が変わったことは大きかったですね。 香取慎吾、草なぎ剛とともに「新しい地図」を結成して、もう7年。けっこうな波瀾の日々だったはずですが、僕自身のあり方は変わらないというか。僕は自分の心情と仕事を分けて考えるほうなんです。
苦悩や挫折を仕事に活かして、みたいなこともないし、何か苦しみや悩みごとがあっても、そこにはいったん蓋をして、自分の心と体を常に健康な状態に持っていくようにしています。 なぜそれができるかというと、僕らは、ベートーヴェンのようにゼロから作品を作るクリエイターではないからなんですよね。誰かから与えられた作品を、演技や歌で表現するのが仕事です。それだけに、常に心が健全でいないと、職人として、仕事をまっとうできないんです。 それに僕の場合は、たとえ思い悩んだとしても、それを人に言わないですね。プライドが高いのかな? 心の奥底に、弱いところを人に見せるのは好きじゃないという思いがあるのかもしれません。 演じている役に引っ張られることも、ないですねえ。やっぱり芝居って人に伝えるものですし、作品は皆で作るものだから、あまり独りよがりになってもいけないと思うんです。何より、ずっと引っ張られていると身が持たない(笑)。味気ない言い方で申し訳ないですが、僕はそんなふうに考えています。 舞台には、ある程度前回をなぞっていかないと危険な部分や段取りがあります。そこと慣れとの戦いと言いますか、いかにして「いま初めて起きたものにするか」が大切なのだとしみじみ思います。
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