なぜアーモンドアイは”皇帝の呪い”を解き史上初のG18冠を達成できたのか?
2着馬のダノンプレミアムを3馬身突き放した昨年の天皇賞・秋ほどの楽勝とはならなかったのは、年齢面より芝のコンディションの違いが影響したのだろう。 好天に恵まれ、馬場コンディションは悪くはなかったが、1分56秒2の高速時計だった昨年に比べ、今年は1分57秒8の勝ち時計である。高速レースを実現するほどの馬場コンディションではなく、ライバルにもつけいるスキがあったというわけだ。 しかし、それをはね返すポテンシャルがアーモンドアイにはあった。 国枝調教師は安堵の表情を浮かべた。 「レース前はリラックスしていた。とにかくゲートがどうかと思っていたが、いいスタートを決めて、いい位置が取れた。これならと思ったが、やはり簡単にはいかない。最後は少し一杯になったところもあった。それでも注目を浴びる中、期待に応えて8つ目のG1を取れたのは素晴らしい」 7冠を達成したのは”皇帝”と呼ばれたシンボリルドルフだった。だが海外G1で8冠の挑戦に失敗し1986年に引退した。その後、ルドルフ越えの8冠に挑んだのは、テイエムオペラオー、ディープインパクト、ウオッカ、ジェンティルドンナ、キタサンブラックという錚々たる名馬である。だが、G17勝目が引退戦となるケースも目立ち、”8冠の壁”が大きく立ちはだかった。その現実は”ルドルフの呪い”とまで評された。だが、その壁をついにアーモンドアイは打ち破った。 その理由のひとつは、14戦10勝という戦績に隠されている。 アーモンドアイは、現在11戦連続G1出走中でステップ戦を挟まない。 “ぶっつけ本番“に強いのだ。レース間隔が3カ月以上開いた場合の戦績は7戦7勝。芝のレースはダートに比べ、消耗度が激しく、競走馬にとって大切な脚元への負担が大きいが、出走回数を減らせば、当然、そのリスクは軽減される。 その分、調整が難しくなるが、国枝調教師が絶妙の計画を組んで仕上げてきた。美浦トレーニングセンターの近郊に充実した調教施設を構えており、調教の技術、仕上げの面での抜かりがない。 G18勝のうち、牝馬限定G1で4勝しているため、その価値を疑問視する声も一部にある。だが、天皇賞・秋の連覇となると、シンボリクリスエス以来2頭目で、究極の戦いとなる東京2000メートルでの達成は初めてだ。過去に天皇賞・秋の連覇の偉業を果たせなかった馬にテイエムオペラオー、ブエナビスタなどがいることを思えば、その価値に疑問の余地はない。しかも、3歳時のジャパンカップは2分20秒6という驚がくのレコードタイムで勝っている。G1の数が増え、海外G1挑戦への壁が低くなっているという状況の変化もあるが、アーモンドアイが“ルドルフの呪い”を解いた偉業は評価されるべきだろう。
国枝調教師は、気になる今後について「オーナーサイドと話をして、ということになると思います」と明言は避けた。しかし、ルメールは「新しい馬たちが挑んできますが、次もいいレースをしたい」と来るべき戦いをイメージしている様子だった。 アーモンドアイに出走の可能性があるのは、ジャパンカップと有馬記念の残り2戦だ。無敗の牝馬3冠デアリングタクト、父子2代の無敗3冠を達成したコントレイルとの夢対決が、そこで実現するのだろうか。“ルドルフの呪い”を解き、今度は、不滅の大記録へ。競馬ファンの夢が広がっていく。