「信州そば」は、なぜおいしいのか……信濃の山あいで育まれた 香り高く多彩なそば文化を訪ねてみた
「信州そば」はなぜおいしいのか
信州は寒冷な気候と険しい地形がそば栽培に適しており、古来、そば作りが盛んな地域である。その歴史は奈良時代にさかのぼり、修験者・役小角(えんのおづぬ)が南信の伊那地方にそばの種を伝えたことが始まりとされている。 長野県産のそばの特徴は、厳しい寒暖差がもたらす優しい甘みと香りの高さと言われる。そば打ちには山岳から湧き出る清水が使われることが多く、これがそばの風味を引き立てる重要な役割を担っている。 北陸新幹線で行きやすいそば処、長野市を訪れた。長野駅から善光寺へ続く長い表参道を歩けば、そばの店が点在し、食べ比べも楽しい。駅からバスに揺られて山を越えれば、名産地である戸隠(とがくし)に至る。戸隠神社の修験者がそば粉を携帯食としていたと伝わり、そば栽培の歴史は長い。 戸隠神社奥社へ続く杉並木の参道と神秘的な随神門
戸隠では在来種のそば栽培に注力
現在の戸隠では、在来種のそば栽培に力を注いでいる。「小粒な戸隠在来種で打ったそばは、野生味が際立つ」と語るのは戸隠そば生産組合「絆(きずな)」の松本洋一さん。挽きぐるみ製法で甘皮を残した戸隠そばは、野趣溢れる味が特徴で、在来種はさらに強い風味を持つという。「種を選別し始めて20年。この味を広めていきたい」と松本さんは笑顔を見せる。 戸隠では11月5日~22日の平日に「戸隠そば祭り半ざる食べ歩き」を開催。実施店で「蕎麦ごよみ」(2000円)を購入すると、3店舗で1人前の半分の量が食べられる。 信州そばの魅力は多様だ。焼きみそや辛み大根を添える高遠(たかとお)そば、つゆにくるみを混ぜる小諸のくるみそばなど、それぞれの地域のそば文化が残っている。各地に暮らす人々が守り伝えてきた芳醇なそばの味わいをぜひ堪能したい。 文・写真/阪口 克
戸隠で行きたいこだわりのそば店
■そばの実 戸隠の四季を映す鏡池の近くに立つ。契約農家から仕入れたそばの実を、その日の天候や状態を見極め自家製粉。戸隠山の伏流水で手打ちする。戸隠の新そばは10月末に始まる。「鮮烈な香りを楽しめますが、年明けの熟成されたそばの深みも良いですよ」とは2代目店主の徳武祐介さん。おすすめの貴重な戸隠在来の実を使った十割そばを岩塩でいただく。つややかで喉越しが良く香り高い。 電話:026・254・2102 営業:11時~16時(そばが売り切れ次第終了)/木曜、第2・4金曜休 交通:北陸新幹線長野駅からバス1時間5分、鏡池入口下車すぐ(冬季はバス停の変更あり)/上信越道信濃町ICから18㌔ 住所:長野市戸隠3510-25